約 2,288,734 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1037.html
俺は植物園の南側に小隊を集結させていた。とはいってももはや無事な生徒は10名しかいなかったため、 学校から補充要員として送られてきた生徒10名を加えて総勢20名となっている。 現在の状況はこうだ。植物園北側は古泉の小隊が押さえて、敵の侵入を阻止している。 エスパー戦闘経験のある古泉の度胸はとてもよく、敵の攻撃をものともせずに押さえ込んできた。 一方の南部が問題だ。鶴屋さん部隊も俺たちと同じく包囲状態になり、完全に孤立してしまっていた。 さらにここ2時間近く連絡すら取れない状態に陥っている。そのため、長門の支援砲撃ができない。 闇雲に撃ち込んで、間違って鶴屋さんたちに当たれば本末転倒だ。 それを救出するべく俺たちは森との境界線に陣取っているんだが、 向こうも南部への移動を阻止するように抵抗が激しく、鶴屋さんの救出どころか、植物園から森に侵入すらできていない。 何とか森との境界にある小さい丘に身を隠し、敵の銃撃を受けないようにしているだけである。 「ガンガン撃ち込んでくれ、長門!」 俺は膠着状態を打開するために、徹底的に砲撃をさせていた。向こうが壁を作って通さないというなら、 こっちは完膚無きまでそれを破壊しつくまでだ。しかし―― 「だめだね。まだこっちに向かってガンガン銃撃してくるよ」 「どこに潜んでいやがんだ。さっきからあれだけ撃ち込んでいるってのによ!」 国木田の言葉に俺は吐き捨てるように怒鳴った。ここに来て、砲弾を受けても効果なしなんて言うインチキを 始めやがったんじゃないだろうな? また、目前で4発の迫撃弾が着弾した。轟音と砂が顔に降りかかってきたので、あわてて頭を下げる。 「油断するとヘルメットごと頭を持って行かれるかもね」 となりで物騒なことをひょうひょうと言うのは国木田だ。どうしてこいつはこんなに度胸が据わっているんだ? 俺はずれたヘルメットをかぶり直しつつ、 「砲撃で効果がないってなら、別の方法を考えないと――ん?」 そこまで言って気がつく。先ほどの着弾以降、敵側からの銃撃がぴたりと収まっていた。 ようやくクリティカルヒットだったか? 「よし……一気に前進するぞ。ついてこい」 俺は慎重に腰をかがめながら立ち上がり、丘を登り始める。同時に小隊全員がそろそろと俺についてきたが…… 「……ぶっ!」 情けない声とともに、俺は丘の下に引きずりおろされた。だれかに服を強引に引っ張られたようだが―― 同時に丘の向こうで悲鳴が飛んできた。さらに、身体に銃弾がめり込むいやな音と血しぶきも一緒にだ。 あわてふためいた生徒たちが次々と丘の下に飛び込んでくる。 「キョン、大丈夫かい!?」 俺を丘の下に引きずりおろしたのは国木田だった。何を考えているんだと怒鳴りそうになった瞬間、 その意味を理解する。頭の上を飛び越えていく銃弾の荒らしと、丘の向こうから聞こえてくる絶望的なうめき声を聞けば、 どんなバカでも理解できるはずだ。 答えは簡単。またしても、敵の罠に引っかかったのだ。砲撃の着弾と同時に、銃撃をやめる。 やったと思った俺たちがのこのこ丘を越えてきた時点で狙い撃ち。こんな単純な手に引っかかるとはバカか俺は! 俺はそろりと丘から頭半分を出し、どうなっているのかを確認した。そこには血まみれになった生徒二人が 倒れている。一人は突っ伏したまま動かず、もう一人は痛みのあまりうめいて手をばたつかせていた。 あまりの悲惨さに思わず身を乗り出して手を出そうとするが、それを阻止すべくまた敵の銃撃が始まる。 数発が負傷した生徒に命中し、さらなる悲鳴を上げた。奴らには情ってモンがないのか!? 「助けないと!」 俺は飛び出して行こうとするが、またも国木田に制止させられる。 「冷静に! とにかく、こっちも撃ちまくって向こうの頭を下がらせるんだよ。その隙に救出するべきだね」 「く……わかった。すまんが頼む」 国木田の案を受け入れて、俺は生徒たちに一斉射撃を命じた。全員一気に立ち上がるとそこら中の茂みに向けて乱射を始める。 敵側の銃撃が収まったことも確認せずに俺は丘から身を乗り出し、負傷した生徒を丘の下に引きずりおろした。 同時に動かなかった生徒を小隊の一人が同じように引きずりおろす。 俺が助けた方は、名前も知らない女子生徒だった。全身の銃弾を浴びて、傷だらけどころかぐちゃぐちゃだ。 「ハルヒ! 負傷者だ! ひどい怪我なんだ! 誰かよこしてくれ!」 『わかった! 何人か向かわせるわ!』 無線連絡後、ハルヒ小隊の何人かが、その女子生徒を回収していった。すでに瀕死の状態だったが、 それでもまだ生きている以上、こんな弾の飛び交う場所に置いては置けなかった。 「くそっ……」 俺は丘の下で座り込み、ヘルメットを取ってため息をつく。やりきれなさすぎる。 鶴屋さんたちを助けたいがどうすることもできない。無理につっこめば、こっちの犠牲が増えるばかりだ。 救出する方が損害大では意味がない。どうすればいい? いっそ鶴屋さんたちが自力で戻るのをここで待つか? 包囲状態とはいえ、そのままでいるわけもないし、こっちに移動してきているはずだ。 だったら、それを向かえ入れた方が…… と、突然そばにいた生徒から無線機を渡される。古泉からの連絡らしい。 「なんだ古泉。今はおまえの話を聞くような気分じゃないぞ」 『それだけ言えるならまだ無事と言うことですね。安心しました』 全然安心できねえよ。あっちもこっちもめちゃくちゃで、頭がおかしくなりそうだ。 いや、普段の俺だったらとっくにおかしくなっているだろうよ。ちくしょう、一体どれだけ俺の頭の中をいじくりやがったんだ。 『それはさておき、そっちの様子はどうですか?』 「その前におまえの方を教えてくれ。聞く前にまず自分から言うもんだろうが」 自分でもそれは違うだろと自己つっこみをしてしまったが、古泉は苦笑しているような声で、 『こっちはなかなか派手な状態ですよ。北部一帯で防御戦を引いて何とか敵の植物園侵入を阻止していますが、 向こうも焦っているんでしょうか、携帯型のロケット弾ぽいものを持ち出してきました。 さっきからそれの雨あられですよ』 それでも防御線を守りきっているのか。本当にたいした奴だな。ハルヒの見る目も。 『そろそろ本題に移りましょうか。どうやら、そっちは未だに鶴屋さんのところにたどり着けていないようですね』 「ああ、腹立たしいがその通りだ。敵の抵抗が厳しい上に、砲撃が全くきかねぇ。これじゃどうしようもない。 正直、侵入はあきらめて鶴屋さんが戻ってくるのを待ったほうがいいかと考え中だ」 『それは待ちぼうけになるからやめた方が良いですよ』 なに? それはどういう意味だ? 『ここに来るまでの間に、涼宮さんと鶴屋さんの無線連絡を耳に挟みましてね、いえ、盗み聞きしたわけではありません。 すごい剣幕で話しているからいやでも耳に届いたんですよ』 ハルヒと鶴屋さんが言い争い? 全く想像ができないぞ。どういうことだ? 『完全に聞いたわけではありませんが、大体想像がつきます。鶴屋さんは、目的であったロケット弾発射地点を 制圧するまで撤退するつもりはありません。たとえ、誘い込むための罠であってもです』 「うそだろ……」 俺は唖然としてしまった。さらに古泉は続ける。 『気持ちはわからなくないですね。あなたの方は、逃げた敵の掃討だったので、 罠とわかればあっさりと撤退が可能です。実際にそうなりましたしね。しかし、鶴屋さんの方は違う。 たとえ、罠であってもここで発射地点を制圧しなければ、北高への攻撃は続行されるでしょう。 結局はまた制圧に向かうことになる。それでは同じ事の繰り返しです。ならば、どんな犠牲を払ってでもとね。 できることなら犠牲を出したくないという涼宮さんとは完全に対立するでしょう』 ハルヒは自分で何でもやりたがるタイプだ。間違っても自分の作戦で他人が死にまくっても平然としているような奴じゃない。 そんなことになるくらいなら、ハルヒ自身がやろうとするだろう。今思えば、植物園にハルヒ小隊を置くと 頑固に言い張ったのも、指揮官が前線に出るなんてという考えと、できるなら自分が戦っていたいという考えの ぎりぎりの妥協点だったかもな。 そして、鶴屋さん。正直なところ、鶴屋さんの人物像はつかみづらい。すごい人であるという認識程度だ。 今回だって包囲状態に陥ってもなお発射地点制圧をすると強弁できるなんて常人には―― 待てよ? ひょっとして鶴屋さんは最初からこれが罠であるとわかっていたのか? 『僕もそう思いますね。鶴屋さんは罠の可能性を強く疑っていたのではないでしょうか。 だからこそ、たとえ罠だとはっきりしても目的を変更するつもりはない。そう言うことでしょう。 また、あの時、罠である可能性をしてきた僕の意見に対して何も言わなかったのは、 罠であろうがなかろうが関係ないということだったのでは』 鶴屋さん……あなたって人はっ……どこまで俺たちの上を行くつもりなんですか? しかし、そうなると未だに鶴屋さんが帰還しないと言うことは、制圧もできていないと言うことだ。 『そうでしょうね。だからこそ、あなたには鶴屋さんのところへ向かってほしいんです。 救出ではなく加勢としてね』 古泉の言葉で俺の腹は決まった。何としてでもここを突破する。それしかない。だが、どうすりゃいい? 『確証はありませんが、敵の動きは涼宮さんの性格を強く意識しているように思えます。 今回の待ち伏せを考えてみてください。敵は北山公園で待ちかまえると同時に、遠距離から北高を攻撃しました。 この場合、我々にはいろいろ選択肢があります。たとえば、こちらの砲撃で徹底的に北山公園南部を砲撃する―― これは長門さんが効果が薄いと言っていましたが。また、校庭にヘリコプターもありましたから、 あれで発射地点を確認し、少数部隊でピンポイントで叩く。砲撃に耐えながら、学校に完全に立てこもって 籠城という手段もありますね。考えればもっといろいろあるかと。 しかし、涼宮さんの性格上、確実に北山公園全土制圧を一番に考えるでしょう。 やられっぱなしなんてもっとも嫌がりますし、ピンポイント攻撃だと相手が逃げ回って延々と追いかけ回すことに なりかねません』 また頭上を飛んでいく銃弾が激しくなってきた―― 『このようにたくさんの可能性がありながら、敵は誘い込んで待ち伏せという手段をとっていました。 完全にこちらの動きを読んでね。涼宮さんの性格を知っているからこそ、迷わずにその手を採用したんです。 そして、自らが決定した作戦のせいでたくさんの犠牲者を出したことになれば、 涼宮さんに与えるダメージは半端ではありません』 「ハルヒの考えを読んでいたとは限らないだろ。敵はこれだけの世界を簡単に作り出しちまうんだ。 なら、俺たちは常に監視されていて、こっちの動きが筒抜けの可能性だってある」 『ええもちろんです。しかし、たとえそうであっても敵の目的が涼宮さんであることには違いありません。 それを最優先に動いてくるはずです』 なるほどな。なら敵はロケット弾発射地点を死守したりすることよりも、ハルヒに精神的苦痛を与えることを 最優先に考えているって事か。 『話が早くて助かります。敵の動きと涼宮さんの考えと照らし合わせれば、おのずと敵の動きも読めるのではないでしょうか。 今言えることはそれくらいですが――おっと、ちょっとこっちも活気づいてきてみたいですね。 あとはお任せします。ではまた』 そこまでで通信は終了。俺はサンキュと無線を持った生徒にそれを返す。 さて、どうするか。敵は砲撃ものともせずに、俺たちの鶴屋さん小隊との合流を阻んでいる。そこまで粘る理由は? そりゃ、包囲状態にした敵――鶴屋さんたちと増援の俺たちの合流を許すわけがない。いや待て、その考えじゃダメだ。 こうやって、俺たちが何もできずにただ時間がたっていることにハルヒは相当のいらだちを覚えるはずだ。 だから、こうやって俺たちの足止めを行っている……よし、この考えで良い。 そうなると、敵はできるだけ鶴屋さんの孤立状態に陥らせることに専念するはず。では、どうする? 「……ちっ」 結局、相手の考えを読んだところで何も変わらねぇ。敵の目的と俺たちの目的が完全にぶつかっているからだ。 なら、ここからの鶴屋さんの場所に向かうのはあきらめて、数名で北山公園のすぐ南にある光陽園学院に行き、 そこから北上して行くか? いや、敵は信じられないことを平然とやっているんだ。その動きを読まれて、 すぐに防御線が築いてしまう恐れもある。 だったら目的を変更してやればいい。俺の目的は鶴屋さんへの加勢なんだから……加勢に行かない? ふざけんな。 そんなまねができてたまるか。じゃあ、いっそ南部を手当たり次第砲撃するように長門に指示するとか……鶴屋さんを殺す気か? ん、ちょっと待てよ? ハルヒは全員の植物園までの撤退を望んでいるという。だが、鶴屋さんはそれを拒否して、 未だに発射地点制圧を行っているんだ。ならそれは敵にとって想定外の事態じゃないか? 鶴屋さんの後退を阻止するのではなく、発射地点を防御しなけりゃならないからな。 でも、発射地点は敵にとってさほど重要なものではないと思える。俺たちをここに誘い込むだけの利用価値のはず。 さっさと鶴屋さんたちに破壊させて、包囲状態にでも何でも置けばいい。だが、確信を持って言えるが、 鶴屋さんたちはまだ発射地点を制圧できていない。何の証拠もないが、無線連絡が取れなくても、 あの人なら何らかの手段で俺たちにそれを伝えるはずだ。絶対に。 俺はふとあることを思いついて、無線機を取る。話す相手は朝比奈さんだ。場違いな相手じゃないかって? だが、俺たちの中で一番鶴屋さんのことを知っているのは、朝比奈さんであることに間違いないだろ? 『キョンくん! 大丈夫なんですかぁ!?』 焦りきったマイエンジェルの声に俺はいくらかの癒しパワーを受け取ってから、 「ええ。何とかまだ生きていますよ。ところでちょっとお話が」 俺は今の状況を端的に話す。俺が知りたいのは鶴屋さんならどうするのかとか、 鶴屋さんならどのくらいできるだろうとかだ。 朝比奈さんはう~んといつも以上に悩みながら、 『そうですねぇ……わたしが言えるのは鶴屋さんは本当にすごい人です。だから、そんな危ない状況でも 簡単に抜けられちゃうんじゃないかなぁって思うんです。でも、何でこんなに時間が……』 今の会話に俺は何かを感じた。どこだ? すごい人の部分か? そんなことは俺もわかっている。 簡単に抜けられちゃう……ここだ。そうだ、包囲状態でも攻撃を続ける鶴屋さんなら 植物園までの後退は簡単にできるんじゃないか? だからこそ、敵は鶴屋さんを引き留めるために 発射地点を死守する必要がある。それなら、理屈が合うってもんだ。 『でもぉ……ひょっとしたら……』 「朝比奈さん」 まだ独白のように続ける朝比奈さんの言葉を遮り、 「ありがとうございます。おかげで考えがまとまりましたよ。すごく助かりました」 『え……えっ?』 何が何やらわからない朝比奈さんがかわいらしすぎてもだえそうになるが、ここは我慢だ。それどころではないからな。 「じゃあ、また学校で会いましょう。戻ります」 『待って!』 突然、朝比奈さんからせっぱ詰まった声が飛ぶ。 『鶴屋さん……いえ、みんな無事なんですか? ここからじゃ、一体何が起きているのかさっぱりわからなくて……』 今にも泣き出しそうな――いや、もう涙ぐんでいるのかもしれない声が無線機から漏れてきた。 俺はどう答えるべきかしばし考えた後、 「大丈夫ですよ。SOS団はまだ健在です。鶴屋さんもきっとぴんぴんしていますよ』 俺は事実だけを言った。でも、谷口は死んだとは言えなかった。 朝比奈さんは俺の言葉にほっとしたのか、 『がんばってください。また学校で』 そう言って無線を終了した。すみません、朝比奈さん。 そこに国木田が丘の下に滑るように降りてきて、 「で、キョン。どうするのさ」 「今はこのままだ。しばらくしたら絶対に変化が起きる。そしたら、こっちも動くぞ」 国木田は俺の自信めいた口調に疑問符を浮かべながらも、また丘の上の方に戻っていった。 これから起きることは二つだ。まず第一に鶴屋さんが発射地点を制圧する。そうなった場合、 あらゆる手段を使ってでも、俺たちにそれを知らせてくるだろう。次に鶴屋さんたちが全滅する――考えたくもないが。 だが、この場合は敵が発射地点の防御を行わなくなることから、植物園に対する攻撃の動きが変化するはずだ。 今はどちらかが起きるのを待つ。これでいい。 ◇◇◇◇ 変化は意外に早く起きた。俺が待ち始めてから15分後、一発のロケット弾が北山公園南部から発射されたという 長門からの無線連絡が入ったのだ。同じ頃に、南部でひときわ大きい爆発音がとどろいている。 ただし、発射されたロケット弾は 『こちらは攻撃を受けていない。確認した限りでは、北山公園から東側に向けて発射された。今までとは明らかに違う』 以上、長門からの報告。もう俺は即座に確信し、ハルヒへと連絡する。 「おい、長門からの話は聞いたか?」 『聞いたわよ! これは鶴屋さんからの敵制圧の合図に違いないわ! さっすがSOS団名誉顧問だけのことはあるわね!』 「ああ、俺もそう思う。で、俺はどうすりゃいい?」 『とにかく、あんたがぼさっとしている間に向こうはけが人とかでているに違いないわ。 とっとと助けに行きなさい! 以上、命令終わり!』 やれやれポジティブ思考が復活しつつあるようだ。でも、その方がハルヒらしくて安心できるけどな。 「さてと……」 敵はしつこく俺たちに向けて銃撃を続けている。これからどうするか。ハルヒは助けに行けと言った。 なら、敵はそれを阻止するように動くのか? いや待て、それでは今までと大して変わらない。 もっとも大きな精神的ダメージを与える方法は? 俺は結論を出したとたん、笑い出しそうになった。ひょっとしたら初めて敵を出し抜けるかもしれないと思ったからな。 また、俺は無線で長門に連絡し、俺たちの動きを阻止している敵にめがけて、10発ほど砲撃を行うように指示する。 そして、数分後的確な砲撃が俺たちの目前に降り注いだ。今まで以上の轟音に俺は耳を押さえて、鼓膜を守った。 着弾音の余韻が通り過ぎると、辺りに静寂が戻ったことを【確認】する。 「また罠かな?」 国木田は警戒心を表していたが、俺はそれを無視し、一人で丘の上に立ち上がった。 「キョン! 何をやって……え?」 抗議の声を止めたところを見ると国木田も気がついたらしい。まったく弾丸は飛んでこないことに。 俺はそのまま小隊の生徒たちを待機させたまま一人じりじりと前進し、森の中に数歩はいる。砲撃のすさまじさを 表すように地面が穴だらけになっていた。しかし、敵は一人もいない。 確認完了だ。俺は右手を挙げて、小隊を前進させて森に入らせた。 ◇◇◇◇ 「やあ……キョンくんひさしぶり……でも、ダメじゃないか……敵は……」 鶴屋さんの力ない声が耳に流れ込んでくる。ほとんどかすれ声だった。だが、言おうとしていることはわかる。 同時に俺の背後ですさまじい銃撃戦が始まった。俺たちが来た道から背後を突くように、 敵が襲ってきたからだ。だが、この攻撃をわかっていた俺たちにとって、それは背後からの攻撃にはならない。 完全に迎え撃つ準備はできている。 しばらく激戦が続いたが、やがて敵は長門の砲撃を受けて下がっていった。 「すごいね、キョン。何でわかったのさ?」 「俺だって学習能力ぐらいはあるんだよ」 国木田の指摘を軽く流して、俺は周囲を見回す。鶴屋さんがいたのはやはりロケット弾発射地点だった。 すっぽりと森に穴が開いたような場所に一台のトラックが置かれている。その上には ロケット弾を載せるための鉄レールを平行に並べ柵状にした棚が乗っていた。いわゆるカチューシャロケットと言われる 多連装ロケットランチャーだ。こんなもんで俺たちを攻撃していたとはな。 敵の動きは大体読めていた。ハルヒは鶴屋さんたちを助けに行けと言った。そして、敵はすんなりと鶴屋さんのもとに 俺たちを招き入れた。理由は簡単。今度は俺たちを包囲状態にするためだ。北山公園に俺たちを誘い込んだのと 同じ手法である。ハルヒが決定して、そのせいで俺たちが大損害、となればまたまたハルヒに与えるダメージはでかいと 踏んだのだろう。だがな、甘いんだよ。そうそう何度も同じ手が通用してたまるか。 だが、予想外なことも一つだけあった。最悪なものだ。 「ふふっ……そっかぁ……キョンくんも気がついたんだねっ……」 鶴屋さんは息も絶え絶え、寄りかかるように座っている木の根元には血だまりができようとしていた。 周りにいる鶴屋さん小隊の生徒4人も不安げな表情で見つめている。 そう、鶴屋さんは銃撃を受けて今にも息絶えようとしている。くそったれ! やっとここまで来れたってのに! 「鶴屋さん! ようやく来れたんです。早く学校に戻りましょう!」 俺は鶴屋さんを背負おうと彼女の肩に手をかけるが、そばにいた鶴屋さん小隊の生徒から制止される。 衛生兵の役割を担っていた彼は、動かせない。動かせば死ぬだけと沈痛な口調で言った。 「そんな……やっと目的を果たせたんだ! 連れて帰らないと! 大体、おまえら何で指揮官を守ってねえんだよ…… ってそうじゃねえだろ! くそっ! 何言ってんだ俺は!」 あまりの言いように、自分自身に怒りが爆発する。鶴屋さんは自分の配下の生徒たちを力なく見回し、 「責めないでよ……みんな必死にやったさ。無能なのはあたし自身。結局、守れたのはたったの四人だけっさ……」 鶴屋さん小隊の人間から聞いたことだが、植物園から南部に小隊が入ってすぐに攻撃を受けたらしい。 その後、包囲状態に置かれようとしたが、先手を打った鶴屋さんが小隊をさらに3~4人に分けて、 北山公園南部一帯に散らばせた。そのため、敵はその散らばった小隊を追いかけ回し、 鶴屋さんたちはロケット弾発射地点を探し回る。まるで鬼ごっこ+缶蹴りだ。 鶴屋さんたちは空き缶=カチューシャロケットを探し続け、ついに目的を果たした。 目的を果たしたと同時に、散らばった生徒たちは植物園に戻るように指示していたらしいが、 ハルヒに確認した限りでは誰も戻ってはいない。ここにいる生徒以外は全滅したと言うことだろう。 さらに鶴屋さんまでもが…… また、俺の背後で銃撃戦が始まる。しつこい連中だ。いい加減、あきらめろ! 「キョン、このままだとまた包囲されるよ」 「んなことは言われんでもわかるさ……!」 国木田の言葉に、俺は焦燥感だけが募る。このまま鶴屋さんをおいておけるわけがない ――今までさんざん【仲間】を置き去りにしてきただろ? わかっているさそんなことは……! 「行ってほしいなっ……わざわざあたしをえさにしている敵の思惑に乗ってほしくないにょろよっ……」 「わかっています……わかっているんです……!」 どうしても踏ん切りがつかない。だが、それでもつけなければならない。 俺は絶望的な思いで言う。 「つ、鶴屋さんっ……。朝比奈さんに……朝比奈さんに伝えることは……!」 のどが悲鳴を上げるほどに力んで言葉を出しているのに、それ以上口を開くことができなかった。 でも、鶴屋さんはそれを待っていたのか、にっと笑顔を浮かべて、 「悪いけどみくるにはだまっておいてくれないかなっ……きっと気絶なんかしちゃってみんなに迷惑かけちゃうかも」 「わかりました……!」 「あと、あたしの仲間も連れて行ってっ……最期の最期までバカみたいにあたしについてきてくれた大切な仲間っさ……」 「もちろんです……!」 もうここまで来ると俺は鶴屋さんの顔を見ることすらできなかった。受け入れられない現実を拒否したいのか、 耳すら閉じたくなる。 「じゃあキョンくん!」 突然、かけられたいつもの鶴屋さんの声。俺ははっといつのまにか下がっていた頭を上げると、 普段と変わらない笑顔を浮かべ、俺の方にぐっと腕を突き出した鶴屋さんがいた。 「また学校で!」 その言葉と同時に、鶴屋さんは全身の力が抜け落ち、頭も完全にたれた。元気よくつきだしていた腕も、 力を失って地面に向かって落下する。 すいません鶴屋さん。絶対に元の世界に戻ってまたいつものように騒ぎましょう。でも、ここにいて、 果敢に戦い抜いた今のあなたのことも絶対に忘れません……! 俺は目に浮かんでいた涙をぬぐい、周りにいた鶴屋さん小隊の残りを見回す。皆一様に指揮官の死に涙していた。 これは絶対に作られた感情ではなく、本人の本来の意志によるものだと確信できるほどに悲しんでいるのがわかった。 「これから、おまえらは俺の指揮下に入る。問題ないな?」 4人とも、潤んだ目をしっかりと俺に向けて頷く。 国木田たちと敵の戦闘はますます激しくなりつつあった。もはや一刻の猶予もない。 俺は無線機を持った生徒を呼びつけ、ハルヒに連絡する。 「おいハルヒ、聞こえるか?」 『何よキョン! 鶴屋さんたちのところについたなら、早いところ戻ってきなさい! 当然、鶴屋さんたちもつれてね! 30分以内じゃないと罰金――』 「鶴屋さんは死んだ」 俺の言葉でハルヒは絶句した。叫びたいのを必死にこらえるようなうめきと、何と言って良いのかわからないという 不安定な吐息が無線から流れ込んでくる。 「いいかハルヒ。これから俺が言うことに黙って従え。いいな?」 『…………』 「いますぐ、古泉たちをつれて北高に戻れ。俺たちが戻るのを待つ必要はない」 この言葉に激高したのか、ハルヒは砲弾の着弾音以上の声で、 『バ、バカなこと言うんじゃないわよ! いい!? あんたたちが戻るまで死んでもここを死守するから! 絶対に帰ってくるのよ! 絶対絶対絶対よ! 見捨てるなんて絶対にしないから……帰ってきて! 絶対!』 「良いかよく聞けハルヒ!」 俺の怒鳴り口調にびびったのか、錯乱状態だったハルヒの口が止まる。 「冷静に聞けよ。今、俺たちはまた敵に包囲されようとしているんだ。敵の狙いは、植物園に俺たちが戻るのを阻止すること。 今おまえが俺たちを放って学校に戻るなんて、敵は頭の片隅にすらねえはずだ」 『あんたたちはどうするつもりよ! 玉砕なんて死んでも許さないんだからね!』 「俺たちはこのまま北山公園を南下して、光陽園学院前に出る。そして、学校東側から戻る。 安心しろ。絶対に学校に戻るから心配するな」 ハルヒはしばらくぶつぶつと聴き取れない抗議めいたことを言っていたようだが、やがて、 『……わ、わかったわ……絶対に帰ってきなさいよ!』 「当然だ」 話し合いがまとまったので、俺は無線を終了しようとするが、 『待ってキョン!』 ハルヒがなにやら確認したいらしい。しかし、なかなか言い出せないのか、しばらくうなったような声を上げていたが、 『鶴屋さん……鶴屋さんはどうするの……?』 「……俺の口からいわせないでくれよ。すまん」 『……ゴメン』 そこで無線が切られた。おっと一つ言うことを忘れていた。 『……なに? まだなんかあるの?』 悪い知らせと思ったのか、びくびくとした様子が手に取るようにわかった。 「すまないが、朝比奈さんには鶴屋さんのことは言わないでくれるか? 鶴屋さんからの遺言なんだ。 万一、聞かれたときは――あー、足をくじいたから近くの民家で、このばかげた戦争が終わるまで隠れているって言ってくれ」 『了解……』 そこで今度こそ無線終了。さて、 「よし、このまま南下して学校に帰るぞ! ついてこい!」 俺の空元気な声が飛んだ。 ~~その4へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4380.html
「ねぇ、キョン。あんたポケモン持ってないの?」 近頃は最新型パソコンと睨めっこバトルをくり広げている団長様が、やおら話題をふってきた。まだまだ嵐の前のナンとやらを堪能していたい俺は、何をやらかすか分からんハルヒの目論見をできるだけけしかけないように答えた。 「あんな面倒なものは小四で卒業した」 「私、昨日ゲーム機ごと買ったんだけど……あんたもやらない?」 何故たった一言返しただけでここまで話が進むんだ?…まぁ、ゲームごときで深刻に考えるのもどうかしてるが、ハルヒはここ最近ネットばかりしているからなぁ 「昔は誰でもやったことあるわよね、どぉ?みんなで対戦とかやりたくない?」 「ふぇ~ゲームですかぁ…」 ゲームにまで手を出したら、今流行りのフリーター万歳人間になってしまうのではないか…仕方ない。ハルヒにこんな話をしても無駄だと思うが、たまには世界の平穏の為に働いてみるか 「…ハルヒぃ……こんな話を…知ってるかぁ?」 「な、何よ変なしゃべり方して」 「ポケモンシリーズの初代主人公は死んでいるらしい。」 「!!」 思った以上にリアクションがでかいな。気を悪くするなよ、お前の将来の為だ。 「し、知ってるわよ。金銀で話かけても『………』ってヤツでしょ?そんなんで死んでるって決め付けるなっ!!」 「マサラタウンの母親に聞くと、何か月も音信不通らしい。それに、ゴースト系のポケモンばかり出てくるしな」 「………。」 「これ以外にもポケモンには不気味な噂が沢山あるんだぞ?」 それでもやりたいか?…と言うのはまだ速いか。とりあえず、この意外と怖がりちゃんには精神的に死んでもらおう 「GBA版の伝説ポケモンで、レジアイス、レジスチル、レジロックっているだろ。」 「あれ、第二次世界大戦で死んだ障害者の権化らしい」 「ちょっと!!今日のあんたおかしいわよ、酷いじゃないッ!!」 「ホウエン地方って、九州がモデルだろ?」 レジアイスは長崎 レジスチルは宮崎 レジロックは大分 どれも原爆があった場所だ …朝比奈さん、泣かないで下さいよ。ハルヒの怪しい力でみんなにとばっちりがいかないように頑張ってるんだから 「ふぇ…」 ちなみに今呻きをあげたのは朝比奈さんではなく、団長様である 「奴らの祠にある文字は、病気の人用の『点字』だしな」 「…もう、止めた方がいい」 今から、森の洋館について話そうかと話を繋げようとする前に長門が教えてくれた。ハルヒが泣いてる。 「ふぇ…ふぇ…クスン」 萌えた。 「こんのバッカキョーンッ!!!買ったばかりなのにー!!もうできないじゃないのぉ……」 「ロトムってポケモンが―――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 古泉はニヤけているが、いいのか?閉鎖空間が発生しそうだか? 「おや、貴方はそんなつもりであんな話をしたのですか?」 「…スマン、まさか泣くとは思わなかった」 ハルヒは腰を抜かしたらしく、長門におぶってもらいながら坂を降る。怖がりすぎだ 「ゆきぃ…トイレ」 「ハルヒ、後ろにピカチュウが――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 失禁するなよ? ただでさえ、下校中の北高生に見られてるんだから。それにしてもお前がそんなに怖い話が苦手だなんて知らなかったよ 「今日の彼は a bully。私も苛められたい……」モミモミ 「ちょっと、有希。お尻揉まないでよーオシッコ出るぅ」 …ほら、貴方の後ろにもピカチュウが――
https://w.atwiki.jp/meteor089/pages/90.html
涼宮ハルヒの憂鬱 ハルヒ×キョン作品 原作準拠 発表日 タイトル メインキャラ 引用元 2008/05/09 ハルヒ「キョンはここ! ここに座りなさい!」 ② 涼宮ハルヒ、キョン、古泉一樹 ぷん太 2009/07/24 キョン「ハルヒに……キス?」 ② 涼宮ハルヒ、キョン ぷん太 2009/09/06 キョン「それ……俺と同じだな」 ② 涼宮ハルヒ、キョン ぷん太 2010/04/15 ハルヒ「最近、キョンが格好イイ///」 涼宮ハルヒ、キョン、古泉一樹、長門有希、朝比奈みくる エレ速 if世界観設定 発表日 タイトル メインキャラ 引用元 2008/10/31 ハルヒ「こっ、高校デビューってのをしてみるわっ!」 涼宮ハルヒ、キョン ぷん太 2009/04/26 もしもキョンとハルヒが幼馴染だったら ② 涼宮ハルヒ、キョン ぷん太 エロ作品 発表日 タイトル メインキャラ 引用元 2010/09/03 ハルヒ「んっ あっ んっ んっ」 涼宮ハルヒ、キョン ぷん太 戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4392.html
「おはようございます、キョン中尉」 ん、おはよう、いつものを頼む。まぁおはようってよりは時間的にはこんにちはだがな。 いまこの艦は停泊中だから仕事もなく気楽なもんだ、だもんで甲板士官たる俺様もゆっくり朝寝がしてられるというものだ。 「今日は新任の艦長がいらっしゃる日ですよ、なんでもすごい優秀なエリートだそうですね」 あぁそうらしいな。 「らしいって…同期なんでしょ、中尉と」 あー、同期っていうか年次が一緒というだけだ、学校が違うんだ。俺は北部士官学校卒、あちらさんは東部士官学校卒で等級外の艦とはいえ早くも艦長の超エリート様だからな。学校が違う劣等生の俺と接点なんざないよ。 東部っていえば谷口だろ、たしかあそこ出身のはずだぜ。 『総員甲板に集合せよ、総員甲板に集合せよ』 「いらっしゃったみたいですね、行きましょうよ中尉殿」 さて甲板士官の位置はここだな。しかし眠いな…。 「艦長、全員集合いたしました、お願いします」 「SOS号艦長涼宮ハルヒ、只の軍人には興味ありません、この中に敵国のスパイ、脱走兵、不名誉除隊者、兵役忌避者がいたら私の所にきなさい!」 そこには目の覚めるような美人がいた……。 *******************************
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2694.html
『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―1日目― 掃除当番で遅れるハルヒを後ろに、俺はいつもどおり部室へと足を運ぶ。 朝比奈さんのエンジェルボイスを期待しつつ、ドアをノックすると、 「はい、どうぞ」 忌々しいことに部屋の中に居たのは古泉だけだった。 「お前だけか……。長門もいないみたいだな」 「長門さんなら少しコンピュータ研の方に行くと言っていましたよ」 なるほどな。なら朝比奈さんが来るまでこいつと二人っきりってことか……。 「で?何をそんなにニヤニヤしてやがるんだ?」 何故だかわからないが古泉がいつもの三割増しといったにやけづらを浮かべている。 「いえ、いつもどおりだと思いますが?」 そうかい。だといいんだがな。 「ところで、これでも召し上がりますか?」 そう言って古泉はなんだか妙に高そうなプリンを差し出してきた。 なんだ?まさか毒でも入ってるんじゃないだろうな?勘弁してくれよ。 「いえいえ、そんなことはありません。美味しいと思いますよ。どうぞ」 まぁくれるっていうんだからありがたく頂くとするか。まさかこれのせいでやっかいごとを頼まれたりしないだろうな? それにしてもこれはうまいな。 高そうな見た目に合ううまさだ。これならいくらでも食べれそうな気がするぜ。 「それにしても古泉、お前こんなのわざわざ持って来たのか?」 「いえ、それはそこの冷蔵――」 バタンッ!! いつものように凄まじい勢いで部室のドアが開かれる。 だからもっと丁寧に開けろといつも言ってるってのに聞きやしねえ。 「あら、二人だけ?有希もみくるちゃんもまだなのね。……って!」 ん?なんだ? 何故だか知らないが凄まじい顔でハルヒがこっちを見ている。って、怒ってる!? 「あんた……なにあたしのプリン勝手に食べてんのよ!それ手に入れるの苦労したのよ!」 って、え?これハルヒのかよ。 「え、いや、こ、これは、古泉がくれたんだ、よ」 と、古泉の方に目を向けるとさらにニヤニヤしてやがる。まさか……? 「ほんとなの!?古泉くん?」 「いえ、僕も今来たところなので。部屋に入ると彼はもう食べてました」 いや!ちょっ!?……おいおい!?まじかよ。こいつ裏切りやがった! いや、ひょっとするとはなからこのつもりだったのか?ハメやがったな、このやろう! 「古泉くんもこういってるわよ。どうやらあんたにはお仕置きが必要なようね……。どうしてやろうかしら?」 「あ、そういえばこの近所に新しくケーキ屋ができたようで、そこのプリンは絶品とのことですよ」 「そうなの?じゃあ今からそこ行くわよ!もちろんあんたのおごりね。古泉くん、あとまかせたわ」 「やれやれ……って、わかったわかった。だからネクタイを引っ張るなって!」 「うっさい!さっさと行くわよ」 そうしてハルヒに引きずられて、ケーキ屋に向かうことに。 部屋を出るとき後ろから、「……計算どおり」と、密かに聴こえたような気がしたがおそらく気のせいだろう。 くそ、古泉め、覚えてやがれ。 ◇◇◇◇◇ 『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―1日目(裏)― 「と、まぁこんな感じですね」 「さすが古泉くん、演技じょうずですねぇ」 「ご苦労さま」 「それにしても僕がとぼけたときの彼の顔はとても愉快でした。吹き出すのを我慢するのが大変でしたよ」 「ですよねぇ。私も思わず笑っちゃいました。長門さんなんて爆笑してましたよ」 「……爆笑まではしてない」 「まぁ楽しんでもらえて何よりです。……おや、お二人が店内に入られたようですよ」 『へぇ、けっこう綺麗なお店ね』 『ばか、お前声がでかいっての。恥ずかしいな……』 『あんたこそうるさいわよ』 「……いきなりケンカしてますねぇ。これでだいじょうぶなんですかぁ?」 「まぁなんとかなるでしょう。おそらく」 『じゃああたしはこれにしよっと』 『ほう、うまそうだな。じゃあ俺は――』 『え?あんたも食べるの?さっきあたしのプリン食べたでしょ!』 『いいじゃねぇか。それともお前が食べるのを眺めてろとでも言うのか?……それもいいか』 『な、何を変なこと言ってんのよ!……仕方ないからあんたも食べていいわよ』 『ありがとよ。じゃあ俺が持ってくから席の方よろしくな』 『あ、あら、気が利くのね。頼んだわ』 「少しいい空気になってきたようですね。まだ少しばかりぎこちないですが」 「それにしてもどのプリンもおいしそうですねぇ」 「右から二番目のプリンが一番おいしい」 「へぇぇ、そうなんですかぁ。……って、長門さん全部食べたんですかぁ?」 「食べた。下調べは重要」 「そ、そうですかぁ。……あんまり関係ないような気もしますけど」 『このプリンおいしいわ!あんまり高くないのに』 『そうだな。これもうまいぜ?食べてみるか?』 『そう?じゃあありがたく頂くわ。……へぇ、これもおいしいわね』 『だろ?あ、それもう全部食べていいぜ』 『ほんとに?もう返さないわよ』 『ああ、いいぜ。今日お前のプリン食べちまったからな。悪かったな。……古泉のせいなんだが』 『いいわ。こうやっておごってもらってるし。きっと古泉くんもここまで計算してたのよ』 「おっしゃるとおりです」 『どうだかな。ただ俺に嫌がらせして楽しんでるだけじゃないのか?』 「おっしゃるとおりです」 『まぁこのぐらいならいいんだがな。……ハルヒと二人っきりだし』 『ん?何か言った?』 『い、いや、なんでもない。……あ、ちょっとトイレ行ってくる』 「あ、キョンくんが席を立ちましたぁ。涼宮さんが一人になりましたよ」 「それでは店員にあれを渡させましょう」 『店員さんに渡されたけど、何かしら?……へ、へぇ。こんなのあるんだ』 「やはり気になっているようですね」 「狙いどおり」 『どうしよう。いきなりこんなのやってだいじょうぶかしら?……でも……』 「あ、涼宮さん、すごい顔が赤くなってるみたいですぅ」 「思うつぼ」 「おっと、彼が帰って来ましたね」 『ん?おい、どうしたんだ、ハルヒ?大丈夫か?』 『な、なんでもないわ。大丈夫よ。気にしないで』 『ならいいが。無理はするなよ』 「キョンくん優しいですねぇ」 『あんた、ちょっとここで待ってて』 『ん?構わないが。どうした?』 『なんでもないわ。待ってなさい』 「涼宮ハルヒが動き出した」 「店員さんのところに行くみたいですねぇ」 『これって今日もやってるんですか?』 『はい、本日も承っております。ご希望ですか?』 『そうなんですけど、……今は二人なんで後で出直してきても構いませんか?』 『はい、もちろんです。お待ちしております』 「……コンプリート」 「どうやらうまくいったようですね。僕も明日が待ち遠しいです」 『で、なんだったんだ?』 『なんでもないわ。あんたは気にしなくていいのよ』 「あ、お二人がもう出るみたいですよぉ?」 「さすが涼宮さんですね。思い立ったらすぐ行動ですか」 「じゃあ私たちも今日は解散ってことにしますかぁ?」 「そうですね。それではまた明日」 「明日」 プリン騒動1日目 ―完― ―2日目―へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1077.html
第1話 ~夢~ 「…ョン…ん……きて。…ぇ、起きて…キョ…」 んん? 「…起き……たら…キョンくんっ!!!」 むをっ!? ズドン 「朝だよ、キョンくん!!」 気が付くと俺はベットからずり落ちていた。 正確には落とされただが。 「キョンくん起きて。遅刻しちゃうよ~」 「あ、ああ。」 はて?何やら妙な夢を見ていたような気がするのだが ……思い出せん。 「どおしたの?キョンくん、お腹痛いの?」 「いや、平気だ。何ともないぞ。」 「良かったぁ。」 まぁ、どうせ大したことじゃないだろう。 そして俺は、いつものように強制ハイキングコース的を、 谷口と共に今日も働きアリの様にせっせと歩いていた。 しかし今日の谷口は妙に機嫌が良いな。一体どうしたんだ? 鬱陶しい、あぁ鬱陶しい鬱陶しい。 ナンパが失敗し過ぎてついにおかしくなったか? 「何だ?気になんのかキョン?どうしてもっつーんなら教えてやらないこともないぜ。」 別にお前のナンパの失敗武勇伝など 古泉が1日に肩をすくめる回数より興味がない。 「しょーがねーなあ。どーしても聞きたいみてーだから教えてやるよ。」 何でも谷口は昨日珍しくナンパが成功し、 更にその娘と意気投合して、そのまま付き合う事になったらしい。 「まさか……冗談だろ…」 「ま、俺は一足先に幸せを掴ませてもらうぜ。 お前もいつまでも妙な部活で遊んでないで、 さっさと涼宮とくっついちまった方が良いぜ。」 だから何でそこでハルヒが出てくるんだ。 何度も言うがハルヒなんかより、どーせなら朝比奈さんとくっつきたいね。 「だーから、お前は校内の男子生徒を全員敵に回すつもりか? 俺は友達としてお前に忠告してやってんだぜ。」 うるせぇよ。男子全員を敵に回そうが、俺には朝比奈さんさえ居ればそれで良いんだよ。 「まっ、放課後は出来るだけ1人で居ないようにするんだな。ケケケ。」 と、そうこうしている内に俺達は教室に着いた。 ハルヒは2年になった今年も、背後霊よろしくといったように相変わらず 俺の後ろの席に居座り続けている。 そんなハルヒも最近はいつもの破天荒な考え を発揮する事なく、いつも物憂げに空を見ている。 何故我らが団長様がこんな事態に陥っているのかというと、 そう。今は全国一斉七夕シーズンなのである。 ちなみに今日は7月6日なので七夕は明日だ。 コイツはどうせまた4年前の事でも思い出してナイーブに成っているのだろう。 しかし、今年はその小鬱状態も去年より重症になっており、 何と団活中まで何をするでもなくただボーっと空をみているのだ。 古泉曰わくこんなことは初めての事で、機関も混乱しているらしい。 「よう、おはようハルヒ。」といつもより優しめに話しか けてみる。しかし「ん…」としかハルヒは言わなかった。 オイ、そんなけかよ。何か文句を言ってやろうと思ったが、 チャイムがなり岡部が颯爽と入ってきてホームルームを始めたため諦めて席についた。 授業中、俺はとてつもない睡魔との戦いを強いられた。 やるじゃねぇか、久々にキちまったよ。俺はすぐさま睡魔に敗北を喫する事になった。 ……… …… … はっ!! 俺は今朝と同じ夢を見ていたようだ、内容は思い出せない、 しかし何故か同じ夢だったとゆう事だけは分かった。何なんだ一体。 「お、やっと起きやがったかキョン。」 「ほんと、今日はよく寝てたね。」と、話し掛けて来たのは谷口と国木田である。 あん?そんなに寝てたのか俺は。 「今は何時間目だ?」 「何言ってんだ、もう放課後だぜ。」 なに!?俺は昼飯も食わずに1日中寝てたのか? とゆうかコイツらも何故起こしてくれんのだ。 「何言ってんだよ、お前がちっとも起きなかったんじゃねえか。」 「そうだよ。キョン何しても起きなかったんだよ。」 何だそりゃ?一体どこの寝キョンだそいつは。いや、俺だが。 そんな事より部室へ向かわねばならんな。 「じゃあなキョン。歩きながら寝んなよ。」 「気を付けてね。」 そして俺は部室へ向かった。しかし妙な夢を見たな、何故内容が思い出せないんだ? 朝見た夢と同じだったということしか思い出せん。 そんな事を考えている内に俺は部室に着いた。 もう大分時間も経ってるし今日はノック無しで良いか。ガチャ入りますよ~ 「あ、キョン君。こんにちは」 部室には俺のマイスウィートエンジェルの朝比奈さんしか居なかった。 それに今日メイド服では無く、普通の制服姿だった。何か有ったのか? 「他の奴らはどうしたんですか?」 「えっと、古泉くんと長門さんは今日は学校に来てないみたい。それと涼宮さんは用事が有るからって先に帰っちゃいました。」 何?古泉だけならまだしも、長門まで休むとは珍しい事も有るもんだな。 まぁハルヒの奇行は今に始まった事じゃないが… 「それじゃあ今日はもう帰りましょうか。」 「ぁ、はい。」 そうして朝比奈さんの帰り支度を待ち、俺達は一緒に帰った。 この時点では俺も、少し変なだけで、普段の日常と何ら変わりの無いものだと思っていた。 途中まで他愛の無い話をしていた俺達だったが、 別れ際になって朝比奈さんは急に真剣な顔になって 「キョンくん、実はキョンくんに一緒についてきて欲しいところがあるの。」 はぁ、またどうせ未来関係のお遣いなんだろうな。 「今日はいつへ行くんですか?」 「あ、違うの。今日は未来関係の事じゃなくてね…ぇえと……その、わたしの家に来て欲しいの。」 な、何だと!?朝比奈さんの家に!? 「あの、やっぱりだめですかぁ?」 いえいえ、あなたのご自宅にお邪魔出来るのなら、また4前に遡れと言われても、構いませんよ。 「ほんと?ありがとうキョンくん。」 そして俺は今朝比奈さんの家の前にいる。朝比奈さんは 「ちょっとだけ待っててね。」 と言って家に入っていってしまった。きっと部屋のかたずけでもしてるのだろう。 しかしどうもおかしいな。これで家に入ったら、朝比奈さん(小)のかわりに 大人版朝比奈さんが出てくるんじゃないだろうな。 ガチャ 「お待たせしましたぁ、どうぞ。」 そこにいたのは俺の朝比奈さん。つまりあの小さくて可愛い方の朝比奈さん(小)だった。 良かった。どうやら本当に未来絡みじゃないようだ。 つまり朝比奈さんはただ俺を家に招待したかっただけらしい。しかし年頃の女の子が同年代の男を部屋に入れるってのはどうなんだ? まさか朝比奈さんは… 「どうしたの?キョンくん。」 はっ!どうも変な方向に考えが行ってしまっていたようだ。 「い、いえ、何でもありませんよ。さぁ入りましょうか。」 朝比奈さんは不思議そうな顔をしていたが俺を部屋に入れてくれた。 そして俺がドアを閉めた時、それは起こった。 ポスッ へ?何だ何だ!?何が起きた!!? 下を見るとなんと朝比奈さんが俺に体預け、抱きつくような体制になっていた。 ま、まさか本当に朝比奈さんは…OK取り敢えず落ち着け俺。 朝比奈さんにこんなことされたら応える意外の選択肢は無いだろ。 「朝比奈さん。」 俺は覚悟を決め、出来るだけ真剣な声で朝比奈さんの名前を呼び、朝比奈さんの両肩を掴んだ。 と、その時 「すぅ…すぅ…。」 なっ!寝息!?朝比奈さんの顔を見てみると、それはもう天使のような可愛らしいな寝顔だった。 なんと言うことだ。朝比奈さんはマジ寝していた。おいおいマジかよ、 前にもこんな展開無かったか?と俺がこの状況に既視感を覚え始めた頃、 「こんにちはキョンくん。」 という声が家の中から聞こえてきた。 振り返ってみると、案の定そこにいたのは朝比奈さん(大)だった。 「今回はどんな用ですか?朝比奈さん。」 俺は朝比奈さん(小)を支えながら言った。 「キョンくん最近変な夢見てない?」 なっ!? 「何で朝比奈さんが知ってるんですか!?」 朝比奈さんは少し困ったような顔をして言った。 「ごめんなさい、禁則事項なの。それでね、あなた達は近い内にまた大変なことに巻き込まれるわ。」 またですか。今度は何が起こるんですか? 「ごめんね、今はここまでしか言えないの。あと、 あなたは今日はだけは最近のあの夢とは違う夢を見るはずです。その夢の内容だけは絶対に忘れないで。」ら それは良いんですが、すいませんが寝室は何処ですか?こっちのあなたを寝かしてあげたいので。 「ふふ、そこの部屋よ。」 俺が朝比奈さん(小)をベッドに寝かすと、朝比奈さん(大)は小声で 「夢のこと、忘れないで…それから、今日あなたをその子呼んだのは、 本当に未来のことは無関係なの。その子はわたしが来ることは知らなかった。」 と言った。俺は驚いて振り返ったが、そこにもう朝比奈さんは居なかった。 一体今度は何が起こるってゆうんだ? まさかまたハルヒとあの灰色空間にでも閉じ込められるのか? それとも新手の宇宙人どもが攻めて来るのだろうか。 ………それで、俺はどうすれば良いんだ?たとえ来たとしても俺に何かできるのか? そんな事を考えながら俺は帰ったら飯食って、風呂入ってすぐに眠った。 ……そこは、夜も深いある学校。そのその校庭の真ん中。そこにソイツは立っていた。 ソイツは黄色のリボンを夜風になびかせながら空を見上げていた。 何をするでもなくただ空を見上げていた。まるでそこに来るであろう何かが来るのを、ただひたすら待っているようにも見えた。 「…………今年こそは……会えるわよね…ジョン……」 涼宮ハルヒの方舟 第1話 ~夢~ 終わり 第2話へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3907.html
5 章 それから数日、長門は会社を留守にしていた。物理学の学会で発表があるとかで遠方に出張していて、今日帰ってくるはずだ。 俺は駅前のケーキ屋でスイス風ケーキを買って長門のマンションを訪ねた。入り口でインターホンを押すと、もう帰ってきているらしくいつもの無言でドアを開けてくれた。エレベータで七階まで上がり、踊り場まで来ると七〇八号のドアだけが少しだけ開いているのが見える。長門はいつも、俺が来るのをドアの前でじっと待ってくれている。 「おう、おかえり」 「……ただいま、おかえり」 「研究会はどうだった」 「……いつもどおり」 「そうか。おつかれさん」 こいつなら四年も五年も待たずにさっさと博士号を取ってしまえそうなのだが、大学院にいるのはハカセくんのためで、本人はさほど学歴を必要とは感じてないらしい。まあ人間の作った称号だか。将来は長門博士と呼ばないといけないかもな。 キッチンに入ると、だいぶ様変わりした雰囲気だった。前は小さな冷蔵庫しかなかったが、三ドアの大型冷蔵庫とか水蒸気で調理するオーブンレンジなんかが揃っていた。食器棚に積まれた食器もカラフルなものが増えたし、コーヒーメーカーやフードカッターなんかも並んでいる。 俺がたびたび来るようになってから料理のレパートリーも増えた。キッチンの棚にフレンチにイタリアンに洋風一式、京料理に中華、メキシカンからハワイアン、アフリカンのレシピ本が並んでいる。すべてをマスターしたのかどうかは分からないが、イボイノシシのケニア風ソテーだといって食卓に出されればポレポレ言いながら食ってしまいそうだ。 俺は棚の上から紅茶の缶を取った。そんなに高いブレンドでもないが、北口デパートの専門店で二人で買ったものだ。その隣にペットのエサの缶詰が積んであるのに気が付いた。キッチンの床に小さな皿が二つ並んでいて、星の形をしたペットフードが入っていた。 「長門、犬か猫か飼ってるのか」 「……猫」 見回してみたが、その気配はない。確かに、シャミセンと同じ猫独特の匂いがする。 「どこにいるんだ?」 「……いつもはいない。ときどき、現れる」 「って、もしかして野良猫?」 「……そう」 マンションの七階の部屋まで登ってくる野良猫って、どんなやつだろう。たぶん他所んちの猫がたまに紛れ込んでくるのだろう、と、俺は勝手に解釈した。だいぶ前にメガネの長門に猫を飼えと勧めたことはあるが、この長門はそれを知らないはずで、それはそうとこのマンションってペット禁止じゃなかったっけ。 紅茶のポットにお湯を注いでいると足元でミャーと鳴き声がした。見ると、小さな黒い仔猫が足にまとわりついている。しっぽをピンと立てて俺の足に体をこすりつけるようにしてぐるぐる回っていた。鼻のまわりと両方の前足だけが白い。 「おう、こいつか」俺は仔猫を抱き上げた。「名前、なんて言うんだ?」 「……言えない」 「言えない?まだつけてないのか」 「名前はある。……でも、言えない」 「なんだクイズか?えーっとだな」 俺は冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して猫の皿に少し注いでやった。小さなピンクの舌がチロチロとミルクをなめはじめた。皿の底が見えるまでなめ回し、満足したらしく毛づくろいをはじめた。その仕草がかわいくて、俺は海産物ファミリー的アニメな猫の名前で呼んでみた。 「おい、タマ」 仔猫は耳の後ろを二度ほどかいて、消えた。俺は目の前でなにが起こったのか理解できず、長門の顔を見た。 「今の、見たよな?」 俺が言う、この“消えた”というのはどこかに行ったとかいうんじゃなくて、本当にスッと消えたのだ。 「……この子は、ふつうの猫じゃない」 次の瞬間、仔猫は長門の腕の中にいた。 「……この子は、量子的存在を保持している」 ええとつまり、もっと分かりやすく教えてくれ。 「……名前を呼ぶと、居場所が分からなくなる」 「名前はなんて言うんだ?」 「……ミミ」 ちょっとためらってから長門がその名前を口にすると、仔猫は腕の中から消えた。 「また消えたな」 「……名前を呼ぶと存在が曖昧になる」 「じゃあ、呼ぶときはどうするんだ?」 「イメージを想像すれば現れる。あるいは、この子が自分が気が向いたときに」 試しに姿を思い浮かべてみた。すると、再び長門の腕の中に現れた。まん丸い目が二つ、なにごともなかったかのようにこっちを見ている。 「名前を言っちゃいけないのか」 「……そう」 うちに来て七年になるシャミもかなり妙な猫だが、こいつもまた変な猫だ。 耳の後ろをほりほりしてやると喉をゴロゴロと鳴らした。目の前で指を回すと、前足の爪を出して後を追う。この辺はふつうに猫だな。 ポットの紅茶を持ってリビングのこたつに移った。ミミは長門の膝の上に前足を乗せ、もじもじと足を動かした。長門の細い指がミミを抱えて膝の上に載せ、つやのある毛をなでた。たまに喉を鳴らす音がする。 「生まれて三ヵ月くらいだろうか」 「……それは分からない。さっき見たときは大人だった」 「よくわからんのだが、朝比奈さんとかハカセくんの亀みたいなタイムトラベルか」 「……あれとは理論的に異なる。この子は最初から、時空に対して曖昧な存在」 「もしかしたら十一人、いや十一匹が突然現れたりする?」 「……分からない。ゼロ匹とも、無数に存在するとも言える」 それを聞いて不安になった。どこぞの星の丸っこい動物みたいに増殖しだしたらどうしよう。 ミミは長門の指にじゃれていた。仔猫と遊ぶ長門を見ていると、ほのぼのしていていい絵になると思う。うちのシャミは、最近はもう昼寝をしているだけの肥満猫になってしまった。あれよりはこの子のほうが似合う。 仰向けになってじゃれついていたミミが、何かの気配を感じたのか起き上がって耳をピンと立てた。一心に壁を見つめ、漆黒の瞳孔がまん丸に開いている。長門が手を離すと、ミミは立てたしっぽを左右に振りながら壁に向かって歩き、そのまま壁の向こうへと消えた。 俺は目をしばたいた。 「いま、壁を通り抜けたように見えたが」 「……そう。どこにでも現れる」 ということは、隣の家に忍び込んでサンマを奪ってそのまま逃げることもできるわけだ。便利なやつだな。 俺と長門は、ミミが消えた壁を眺めながらケーキを食った。 「そのうち帰ってくるんだろうか」 「……気が向けば」 静かに紅茶をすすっていた長門が、ふっと呟いた。 「……わたしも、同じことができる」 「その、量子的なんとか?」 「……そう」 そういえば高校のときマラソンで同じようなことを言ってたな。長門はすくっと立ち上がって、バレリーナのようにつま先で立ち、くるりと回った。スカートの裾が舞った。回りながら消えた。俺はしばらくポカンとしていた。数秒後、同じところに現れた。 「思い出した。量子飛躍だったな」 「……そう」 「消えている間はどこにいるんだ?」 「……同じ空間にいる。あなたからは見えないだけ」 長門はそう言って、また消えた。数秒たっても現れなかったので不安になって呼んだ。 「おい……長門?」 気配を感じて振り向くと、真後ろにいた。 「あ、そこにいたのか」 「……捕まえてみて」 ニヤリと笑ったりはしないが、右の眉毛を上げてみせる長門はそんな雰囲気だった。なるほど、こういう遊びは好きだ。俺は笑いながら立ち上がった。 「よーし、捕まえてやるぜ」 俺は部屋の中をむやみやたらに走り回って長門が現れた場所を追いかけた。 「つっかまえた!ってあれそっちかよ」 ゼイゼイと息を切らせながら部屋のあちこちを手探りしていたが、こりゃ作戦がいるな。消えたり現れたりする長門を見ていると、現れるのは正確に三秒後だ。俺は消えた場所と現れた場所に、予測できそうな関係がありそうかどうか考えた。 「……こっち」 微笑を浮かべた長門が、さっきミミが消えたあたりに現れた。これ、かなり高度なもぐら叩きだよな。 長門が消える。三、二、一。「……こっち」声がして振り向くと、また消える。三、二、一。「……あなたの、後ろ」また消える。 手を述べようとするが間に合わず、何度か空振りして俺は宙をにらんだ。ぜったい捕まえてやる。こういうときはもう直感に頼るしかない。そう、頼りになるのは気配だけだ。 現れる直前に空気が少しだけゆれるはずだ、なんて格好つけて考えてみたがまったく分からない。俺は宙を飛ぶ羽虫を捕まえるかのように耳をそばだてた。 長門が再び現れる一秒くらい前だろうか。なんとなく、そこに、いる、ような気がしたのだ。俺は両手を広げ、なにもない空中を大きく囲んだ。 「……あ」 「捕まえたぜ」 背中から俺の腕の中に閉じ込められた長門がいた。 「……どうして、分かった」 少し驚いていた。 「ただの直感さ」 「……興味深い」 ふ。人間には第六感とかヤマ勘とかいう非論理的未来予測機能があるのさ。長門が、ほんとに?という顔をして横目でこっちを見た。ほんとに勘だったのかどうか自分でも分からん。ただの偶然だろう。 俺はじっとそのまま、長門を背中から抱きすくめていた。せっかく捕まえたのを手放すのはなんだか惜しい気がした。このままキスをしようかとふと誘惑にかられそうになったが、足元でミャーミャーと声がした。ミミが俺のズボンに爪を立ててよじ登ろうとしている。仔猫というのは他人が遊んでいると寄ってくるものだ。 「この子を呼ぶ方法がひとつ分かった。俺たちが遊んでいればいいんだ」 「……ときどき、わたしと遊んで」 おう、いつでも遊んでやるさ。俺が遊ばれてる気もするが。 それからミミと長門を追い掛け回す、超高度なかくれんぼに付き合った。ミミには名前を呼んで消えてもらった。壁抜けをする長門より、ミミを捕まえることのほうが存外難しかった。この子には直感が通用しないようだ。 遊び飽きて眠くなった仔猫をなでまわし、俺も時計を見て、そろそろ帰ることにした。長門の膝の上でスヤスヤと眠るミミを起こしたくなかったので、俺は見送らなくていいと言った。 マンションの外に出ると冷たい風が頬を刺した。そろそろ夜が寒い季節だ。帰りの道すがら、俺が長門を捕まえたのは本当に偶然だったのか、それとも長門が狙って現れたのか、ずっと考えていた。 自宅に戻り、部屋に入るとベットに太ったシャミセンが寝そべっていた。 「おい、デブ猫。どいてくれ」 シャミはしぶしぶ場所を空けた。 「今日な、長門んちにかわいい猫がいたぞ。お前も昔はあれくらい器量がよかったのにな」 シャミはいらぬ世話だというように、しっぽを一振りしただけだった。ほとんど家から出ないで食っては寝るだけの生活なんで、まるで歩くハムみたいなありさまだ。もうネズミすら追いかけないだろう。 「少しはダイエットしたらどうだ。肥満は心臓に悪いらしいぞ」 眠そうな目をしたシャミは、腹のたるんできたお前に言われたかねーよという感じなので、俺もどうでもいい感じに放っておいた。 毛布を広げようとしたところ、突然シャミが飛び上がった。ドアに向かって歯をむき出して唸り声をあげている。俺は向こう側に誰かいるのかと思い、ドアを開けてみたが、誰もいない。 「ほら、誰もいないだろ。なにをそんなに怒ってんだ」 なだめてみるが、シャミの戦闘態勢はいっこうに治まらない。しっぽがクリーニング後のセーターみたいにふわふわに毛立って膨らんでいる。 突如、閉まったドアを通り抜けて、一匹の猫が現れた。ミミだった。 「ミミ、お前、ついて来ちまったのか」 ミミはふっと姿を消した。長門に名前を呼ぶと消えてしまうと言われていたことを忘れていた。再びイメージを呼び起こすと、また現れた。あいつの説明によるなら、ついて来たというより直接やってきたというほうが正しいかもしれない。 「シャミ、こいつが長門んちの猫だ。仲良くしろ」 俺がミミを抱いてやると、シャミは警戒しつつ匂いをかいだ。 「ほら、友達だから」 ミミはシャミの鼻先をなめた。猫社会のしきたりは一応知っているみたいだな。 俺は携帯を取り出して、部屋にミミが現れたと長門にメールしてみた。すると返事には「こっちではまだ膝の上で眠っている」と書いてあった。 KYON もしかして異時間同位体みたいなやつ? YUKI.N 厳密には同位体ではなく、量子収束の一形態。 KYON よく分からんのだが。これもミミってことでいいのか? YUKI.N いい。存在が曖昧なだけで、同じ個体。 なるほど。量子世界の話はちょっと理解できん。 「シャミ、そういうことだそうだ。仲良くな」 なにがそういうことなのか俺にも分からんが。シャミは理解したのかしなかったのか、ミミの顔をなめて毛づくろいをはじめた。 オス猫を飼っている人は知っていると思うが、オスというのは季節によっては妙な行動を起こす。二三日ぷいっといなくなったり、傷だらけで帰ってきたり、丁寧に何度もマーキングをやったりする。シャミも若い頃はよく喧嘩傷を残して帰ってきたものだったが。 毛づくろいしていたシャミがミミに向かって嗄れ声で鳴きはじめた。 「おいシャミ、初対面で盛ってんじゃない。この子は長門んちの娘だぞ」 ミミはツンとすました顔で、やって来たのと同じにドアを通り抜けて消えた。まさか夏へと消えていったのではないだろうが。シャミは慌てて後を追いかけ、閉まったままのドアに激突した。鼻を思い切りぶつけたようだ。 「ふられたみたいだな」 俺はくっくっくと笑いを抑えられなかった。 ミミがなぜ長門の部屋に現れたのかを知ることになるのは、数日後のことだ。 何往復かは知らないが、あれから何度か未来とやり取りがあったようだ。分厚い大理石で蓋をしちゃ壊しを繰り返していた。向こうのハルヒからは相変わらず差し障りのない映像くらいしか送られてきてないようだが。 「そろそろ生き物を送ってもいいかもねぇ」 「俺はぜったい行かんぞ。死んでも行かんぞ」 時間移動中に分子レベルまで分解でもしたらコトだ。 「バカね、あんたがこの穴に入るわけないじゃない。もっと小さい、植物とかハムスターとかよ」 それを聞いて安心した。人体実験をやるときには社長自ら志願してくれ。 ハルヒは花束と鉢植えのサボテンを持ち出してきた。このサボテン……。 「あの、長門。ちょっと心配ごとがあるんだが」 「……なに」 「ハエ男って知ってるか」 「……知っている」 「転送中に分子が入り乱れてバケモンになっちまう話なんだが、まさかあんな事故は起こらないよな」 長門は笑いをこらえているようだった。 「……大丈夫。あれとはエネルギー媒体が異なる」 だったらいいんだが。タイムトラベルしてみたらサボテンがハエとかクモと合体してたなんていやだぞ。 「まずはこれ、送ってみましょう。あたし宛にね」 「自分に花束贈るなんて、ちょっと虚しくないか」 「なによ、あんたが贈ってくれるっていうの?」 「ううっ」 「僕が贈って差し上げましょう」 古泉が割って入った。 「うれしいわ、古泉くん。乙女心が分かってるわね。キョンも少しは見習いなさいよね」 よけいなお世話だっつの。 「では、未来の涼宮さんに」 古泉はメモ書きをメッセージカードにして花に添えた。崇高な科学実験だってのになにやってんだこいつらは。 またもや同じように分厚い石の板でフタをしてパテで埋めた。 「思ったんだが、この大理石のフタって意味あんのか」 「蝶番を取り付けて金属製のドアにしてはどうでしょう。毎回壊すのもコストが上がってしまうと思うので」 大量注文した大理石の板で会議室が埋まっている。高く積まれた石が二十枚ほどあり、もし地震でもきたら下敷きになるやつが出そうだ。 「……」 長門がなにか言いたそうだった。後で教えてくれたことだが、ハルヒのかしわ手と、この大理石の分子構造が微妙なマッチングにあり、このワームホールの機能を稼動させているらしい。かしわ手のエネルギーの波が大理石の一部をクォークまで分解して反粒子を生み出している、とか、ふつうにはあり得ないデタラメな現象らしいが。 「手間を惜しんでは科学の進歩はないわ。最初の手順どおりやってちょうだい」 ハルヒの一声で現状継続が決定した。まあ社長自ら肉体労働をやってくれるってんなら止めはしないが。 すぐにメモリカードで返事が来た。今度は小さな包みも一緒に来た。なんだろうこれ。映像には花束を抱えるハルヒが映っていた。 『古泉くん!花束ありがとう。もうあたしったら感激しちゃって(ここで涙を拭く真似)。花もサボテンも、DNA分析してもらったけど異常はないわ。あと、木のタネを送っといたわ。それ、どっか広い場所に、そうね、北高のグラウンドの隅にでも植えといて。あんたが植えてくれたら、あたしが成長した木を見に行けるってわけよ。キョン、これ何のタネだっけ?ああ、そうそう、バオバブ』 「大成功ね」ハルヒがにんまり笑った。 「バオバブって、幹が太いでっかい木じゃないか?」 「アフリカのサバンナに生えてるやつね」 「でかくなりすぎて星を食いつぶしてしまうとかじゃなかったか」 「それは絵本の話でしょ」 相変わらず妙なことを考えつくやつだ。セコイアとか屋久杉じゃなくてよかった。 翌日、ハルヒはペットの移動用ケージを抱えてきていた。中からミャーミャーと鳴く声がする。 「いよいよ動物実験をやるわよ」 「おい、ちょっと待て。大丈夫かそんなことやって」 「植物が大丈夫なんだから、問題ないでしょ」 とは言ってもなぁ。一抹の不安が拭いきれん。 「向こうでバケ猫になって出てきたらどうする」 言ってみて、我ながらバカだと後悔した。 「そんときは送り返してもらえば元に戻るんじゃないの?」 「戻るどころか巨大化したりしないか」 ケージを開けて出てきた猫には、確かに見覚えがあった。ミミだった。俺は長門に目配せをした。 「これ、あの仔猫だよな」 消えてしまうというので、名前は口に出さなかった。 「……DNAは同じ。でも、量子状態が異なる」 「というと?」 長門は仔猫に向かって名前を呼んだ。 「ミミ」 仔猫の姿は消えなかった。 「……この子はふつうの猫。もしくは、量子的変異を起こす前の猫」 「ということは、ハルヒの実験であんな姿になっちまったのか」 「……その可能性が高い」 これはやめさせるべきだ。いくら科学の進歩のためとはいえ、そんな残酷なまねができるか。俺がハルヒにやめろと言おうとすると、長門が袖を引いた。 「……実験を阻止すると、この子の因果律に関わる」 「因果律?」 「この子の未来は、すでにわたしの過去に存在する」 「だとしても、宇宙をふらふらとさまよう姿になっちまうのはかわいそうじゃないか」 「……わたしたちが、面倒を見る」 まあ長門がそう言うなら、命に別状がなければいいか。って今、わたしたちって言ったか。 「わたしたちって、長門と俺?」 「……」 長門は答えなかった。うっかり口がすべったとでもいうような表情をした。ともあれ、物質電送器みたいに細胞が分解したりバケモンになったりするのでなければいいが。 「やってもいいがハルヒ、ひとつだけ条件がある」 「なによ、言ってみなさい」 「時間移動中の心拍と脳波の状態をきちんと記録してくれ」 「なるほどね。あんたもたまにはいいこと言うわね」 たまには余計だ。 ハルヒの命令で獣医が呼ばれた。古泉が連れてきたという獣医のタマゴなんだが、どう見ても機関の人だ。ミミは包帯のようなもので胴体をぐるぐる巻きにされ、そこからコードが出ていた。かわいそうに。俺は自分で提案していて後悔した。しかし異常があったら向こうで治療してくれるだろう。そのための医療用モニタだ。 「そういえばこの子、名前付けてなかったわね」 「……ミミ」 「有希がつけたの?じゃ、ミミ、未来のあたしによろしく」 ミミはケージに入れられたまま、タイムカプセルに押し込まれた。フタが閉められるまでミャーミャー鳴いていた。ハルヒがかしわ手を打ってから数分間は鳴き声が聞こえていたが、突然静かになった。 「おい、そこのマイナスドライバーよこせ!」 俺はまだ乾いていないパテの隙間にドライバを押し込んで、大理石のフタをこじ開けた。 そこには何もなかった。 数分して、メモリカードが返ってきた。 『あんた、いったい何を送ろうとしたの?これくらいの医療機器ならこっちの時代にもあるわ。もっと性能がよくて小型だけど。いちおう残っていた心拍数と脳波のデータをメモリに入れとくわ。次はもっとましなものをよこしなさいよね』 映像のハルヒはコードがぶらんと垂れ下がった医療モニタを持っていた。ケージもそのままだ。 「ミミが消えちまってるぞ」 ハルヒは唖然としていた。 「もしかして、抜け出たんじゃないの」 ケージに入れられるところは全員が見ていたし、それがあり得ないことは分かっている。 「どうしよう……」 ハルヒは真っ青になった。安易に動物なんか使うからだ。 「時間移動中に横穴とか脇道があるんじゃないか」 長門に尋ねてみたが、考え込んでいた。 「……説明がつかない」 長門はメモリ上のファイルを開いて心拍数と脳波の数値を見ていた。 「……大理石のフタを閉じた時間、手を打った時間までは一致している。さらに十三秒後、測定値にエラーを記録。それ以降、データ不詳」 「どこに消えたんだろう」 俺と長門は目を見合わせた。俺はミミが消えたときのことをふと思い出して、試しに姿をイメージしてみた。足元に、やわらかい毛玉がミャーと鳴いて現れた。 「あらっ、ここにいたわ。今、ここに現れた、キョンの足元に」 ハルヒがミミを抱きかかえて頬ずりした。どこも異常はなさそうだ。 「猫ちゃん、ごめんね」 「無事帰ってきてよかったな」 そのとき、返事がもう一通届いた。メモリは手元にあるはずなんだが。封筒を開けると、新品のメモリカードが入っていた。だが容量が俺たちのより千倍以上ある。技術的には向こうのほうが上なんだから、こっちのレベルに合わせてくれないと困るんだがな。 「長門、これ容量が俺たちのよりでかいんだが、読み出せそうか?」 「……やってみる」 長門の超高速タイピングで、いくつかプログラムをいじった後、映像が再生された。 『ごめんごめん、猫ちゃん、後から届いたわよ。いきなり現れたから驚いたわ。今までどこにいたのかしら』 映像の中で、ハルヒの隣で長門がミミを抱えていた。それは届いたんじゃなくて、たぶんそっちにいる長門に会いに行ったんだろう。こっちのハルヒが、自分が抱えた仔猫と、画面に映った仔猫を見比べて、唖然としていた。 「これ、どういうこと?」 「俺には分からん」 「……」 長門はどう説明したものが迷っているようだった。考え込んでいると古泉が分かりやすい答えを披露した。 「未来と過去のエネルギーの総量を保つためにそうなったのでしょう」 つまり、この宇宙にある物質とエネルギーの全体量は決まっている。時間移動したときに勝手に減ったり増えたりするのはおかしい、と。現在でマイナスになった分を埋め合わせるために過去と未来で二匹の猫が生まれた、というのだが、どうやればそういう答えにたどり着くのか俺には分からない。 「なんだ、そういうことなの」 今の説明でほんとに分かったのか、ハルヒ。もし未来に一匹、過去に一匹が行ったんだとしたら、過去と現在の総和は二匹になるんじゃ……いや、やめよう。頭痛くなってきた。俺には長門の言う、曖昧な存在の猫ってのがいちばんしっくりくる。 「これが解決するまで動物実験は中止するわ。それからこの実験結果は社外秘よ、いいわね?」 異議ナシで全員賛成した。こんなことが動物愛護協会にでも知られたらえらいことだ。 ミミは長門が預かることになった。ハルヒのアパートはペット禁止らしい。まあ長門マンションも禁止なんだが。 ハルヒが帰った後、長門と朝比奈さんに尋ねた。 「ひとつ疑問があるんだが、未来のハルヒはなぜ猫が送られてくることを知らなかったんだろう?そのときの記憶がないんだろうか」 「これは別の時間軸が交差しているんじゃないかしら」 「……わたしたちのいる現時点が、別の分岐を生み出している」 「ということは、僕たちが新しい未来を作っているのでしょうか」古泉が口を挟んだ。 「……そう」 「それって、既定事項を真っ向から書き換えてるってことか?」 長門は非常に難しい質問をされたように顔を曇らせた。 「……おそらく、そう。すでにはじまっている」 「わたしが危惧していたのはこれだったの。未来の涼宮さんが知らない歴史が始まっているわ」 「どういうことでしょうか」 「今の涼宮さんが未来の情報を得て、新しい歴史の流れを作ってしまうということなの」 これがどういう状況なのか、俺にはまだピンと来ていなかった。 6章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5314.html
中3の冬 受験勉強の息抜きにふと書店に寄ってみた。そこで一冊の本をみつけた 「『涼宮ハルヒの憂鬱』・・・?」 なぜこの本が気になったのかというと、この本の主人公と俺は同じあだ名だったからだ。妙な近親感ってやつ?しかも国木田って苗字のヤツも出てるし・・・ 感想はというとなかなかおもしろかった。そしてこの本は気晴らしに読んだ一冊で終わるはずだった。 おめでたいことに高校に合格した。国木田も合格した。これからどんな高校生活が始まるのかという期待と不安に俺も例外なく襲われる。 入学式が終わってクラスでのホームルーム、担任の岡部は顧問をつとめるハンドボール部について語った。そして出席番号順に自己紹介。俺はあたりさわりのないことを言ってすぐに自己紹介を終えた。そして俺の後ろの女子の番。 ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未 来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 なんだと!?涼宮ハルヒ?そして自己紹介の内容はおぼろげな記憶だがあの本と同じ。どうなっているんだ? さっきしまったクラス名簿を引っ張り出す。朝倉涼子、国木田、俺、涼宮ハルヒ、谷口、これは偶然なのか? クラス中がハルヒの自己紹介にあっけにとられている、俺はあっけにとられるどころでは済まされなかった 「なぁ、あの自己紹介すごかったな」 俺はいろいろ探りをいれるためにハルヒに話しかけた。 ハルヒ「あんた宇宙人なの?」 「違うけどさ・・・」 ハルヒ「だったら話かけないで」 そうはいかないさ、あの本は俺が小さいころに忘れてしまったサンタクロースからのプレゼントかもしれないんだからな 「もしかして中学の校庭に奇妙な絵かいた?」 ハルヒ「誰からきいたの?」 「中学のときウワサできいた」 ハルヒ「本当よ」 ビンゴ、ということは・・・ 「教室の机全部廊下にだしたのもお前か?校舎の屋上に星マークをペンキで描いたのもお前か?学校中に変なお札を貼ったのもお前か?」 ハルヒ「そ、そうよ・・・だからそんなに迫らないで!」 そうはいかねぇ、まだまだ聞きたいことがあんだよ 「付き合う男はみんな振ったんだろ?普通の人間だからって理由で」 ハルヒ「あ~もうそうよそうよ!わかったならこれ以上質問しないで!」 その時教室に岡部が入ってきた。あとはあとで聞こう。 俺は確信した。おそらくあの本は俺の高校生活を著したものだと。すげぇよ、あれが全部本当なら俺は高校生活は薔薇色じゃねぇか。 休み時間もハルヒを捕まえていろんなことを聞いた 「髪型毎日変えてんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・、あんた以前どっかであったことある?」 「いや、今日がはじめてだ。あと着替えは場所をきにしろよ」 ハルヒ「もう!なんなのよ!アンタってストーカーなの?気持ち悪い!」 ハルヒは走ってどっかいっちまった、不思議探索か・・・? ハルヒはすごく驚いていた。俺はやりすぎたと思ってはいるが、まるで人の心が見える能力を手に入れたようで興奮がとまらない。 今日はあれっきりハルヒは戻ってこない。そして昼休みの時間 谷口「おい、キョン。お前どんな魔法を使ったんだ?」 「魔法って何だ?てかもうあだ名で呼んでんのかよ」 谷口もあの本のまま、そういえば俺は思いっきりあの本のシナリオを無視しちまっている。 まぁ大丈夫だろ、こんなにも共通点が多いんだからちょっとくらい・・・ 谷口「俺、あんなに怖気づいたハルヒなんて初めて見たぞ。お前なんていったんだ?」 傍から見たら変態な質問を浴びせていたなんていえねぇよな。 谷口「驚天動地だ」 国木田「昔からキョンは変な性癖があるからねぇ」 ずいぶんな言い様だな 朝倉「あたしも聞きたいな」 でた、殺人宇宙メカ。ちょっと遊んでみるか 朝倉「入学初日からいざこざがあるのは気持ちよくないわよ」 「それより宇宙人っていると思うか?もしかしたら身近にいるかもしれない」 朝倉「・・・・、なんの話?」 この反応おそらく・・・ 「いや、あの自己紹介聞いちゃったからさ」 朝倉「そう、まぁとにかくみんな仲良くいきましょうね」 そういうと朝倉は笑顔で向こうにいった 次の日からハルヒは休み時間になるとすぐ教室から出て行き、放課後もすぐ教室を出るようになった。予定通り。 GWが終わって少し経ったある日、席替えをした。ハルヒは俺の後ろの席ではない。さすがにあの本どおりにはいかないか。仕方ないこっちから行こうか。 「部活作んないのか?」 ハルヒ「・・・・なんでよ?」 「全部の部活に仮入部してもしっくり来るものがないんだろ?だったら自分で作っちまえよ」 ハルヒ「・・・・、それもそうね」 「俺も手伝うからさ」 ハルヒ「別にあんたの手伝いなんていらないわ」 「一人で部員集めから書類提出までやれんのか?」 ハルヒ「・・・・・、わかったわよ」 「じゃ~俺は書類やるから、部員集めと部室確保よろしくな」 ハルヒ「なんで勝手に役割決めるのよ?」 「部員と部室は当てがあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・・」 よし、とりあえず順調だ 終業のチャイムがなる。ハルヒが俺の前にやってきた ハルヒ「ちょっと来なさい・・・」 「部室に行くんだろ?」 ハルヒ「そうよ・・・」 そして文芸部の前にやってきた。ハルヒはノックもせずに入った。そして予定通り窓際にはパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読む少女。 ハルヒ「ここが部室よ、あの子は唯一の文芸部員だけど本さえ読めれば別にいいって」 長門「長門有希」 窓際の少女はわずかに顔をあげ、表情なくそう言った。 「長門さんとやらよろしくな」 長門「よろしく」 俺はハルヒを振り返って 「部員はあと2人は必要だな、心当たりあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・」 次の日、部室にいくと長門だけがいて昨日と同じ姿勢で本を読んでいた。 「何を読んでいるんだ?」 長門は返事のかわりにハードカバーの背表紙をみせた。SFの小説らしい 「面白い?」 長門「ユニーク」 「どこらへんが?」 長門「ぜんぶ」 「本が好きなんだな」 長門「わりと」 「そうか・・・」 長門「・・・・」 「長門は宇宙人なんだろ?」 長門「・・・・・・、いきなり何をいっているの?」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」 長門「!!あなたは何者?まったくのノーマークだったはず」 ビンゴ 「俺は普通の高校生さ、ハルヒとその周辺の状況は結構知っているけどな」 すげぇ、俺は今宇宙人の一枚上手にいる。これが幼いころに捨てちまった非日常か 長門「・・・・・」 ハルヒ「ごめん、少し遅れちゃった。ちょっと捕まえるのに手間取っちゃって」 予定通りハルヒの後ろには可憐な美少女がいた、朝比奈さんだな みくる「なんなんですかー?ここどこですか、どうしてあたし連れてこられたんですか?」 実物もかなりかわいいな ハルヒ「静かにして」 みくる「・・・はい」 ハルヒ「紹介すr「朝比奈みくるさんだろ?」 みくる「ふぇ?どうして名前を・・・」 ハルヒ「そうよ、連れてきた理由とかはもう知ってんでしょ?」 「ああ、確かに年上なのにロリっぽくかわいくて胸が大きい。萌えが重要なんだろ?」 みくる「な、なんでそんなことまで・・・・」 ハルヒ「みくるちゃんゴメンね、あいつすごく変なヤツなの。あんなのと一緒にいたくななら無理に入らなくてもいいわ」 みくる「・・・・・」 視線の先には長門がいた みくる「そっか・・・私この部活に入ります」 ハルヒ「そ、そう?みくるちゃんなら殺伐とした雰囲気を和らげてくれるわ、よろしくね」 みくる「よろしくお願いします」 ハルヒ「あと部活名考えてきたわ」 「・・・・・・」 ハルヒ「今回は先に言わないのね」 「団長に花をもたせてやってるのさ」 ハルヒ「SOS団よ。世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」 みくる「ほ~」パチパチパチ 長門「・・・・・・」 ハルヒ「じゃ~明日からちゃんときてよね。今日は解散」 そう言ってハルヒは帰った 部室にはまだ俺と朝比奈さんと長門がいる 「朝比奈さん」 みくる「は、はいっ」ビクッ 「朝比奈さんは未来人ですよね?」 みくる「ふぇ!?い、いきなり何を・・・」 「ハルヒの監視のためにこの時代に派遣されているんですよね?」 みくる「あ、いやそのぉ・・・」 「あと胸に星型のほくろがあるはずです。確かめてみてください」 みくる「ふぇぇぇぇ!!!私、男の人に体見せたことないのに!!!」 「質問の答えは話したくなったらでいいですよ、それではさようなら」 そして俺は部室を出た。 キョンが帰ったあとの部室 長門「朝比奈みくる、これは予定された未来?」 みくる「いえ、しかし涼宮さんによる改変と考えれば納得がいくと思います」 長門「これは涼宮ハルヒが望んでいない事象、あの不確定要素が存在は涼宮ハルヒによるものではない」 みくる「でも、私たちのことを知っていましたよ?私たちと同じ異能力者と考えるのが適切かと・・・」 長門「涼宮ハルヒはあの不確定要素を快く思っていない、それでも存在している」 みくる「・・・・・、情報統合思念体はどう解釈しているのですか?」 長門「不確定要素はまったく因果関係がなく発生した。時間軸が異なる世界からの干渉の可能性も視野にいれている。情報統合思念体は今は様子をみるにとどまっている」 みくる「私たちも今は待機なようです」 長門「私と朝比奈みくるは不確定要素と接触して情報を引き出すべき」 そして部活は本格的に始まった。一応筋書き通りに進んでいる。パソコンを奪い取ったり、サイトを立ち上げたり・・・・そういえばサイト立ち上げのとき長門から本貸してもらってないな 「長門、俺に話さなければならないこととかないか?」 長門「あなたはすべて知っているはず。何も話すことはない」 なるほど・・・ ハルヒと朝比奈さんはちゃんとバニーガールでビラ配りもした。やっぱ実物は目にいい。 朝比奈さんはビラ配りの次の日学校を休んだ。 ハルヒ「みくるちゃんは?」 「今日は休みだ」 ハルヒ「そう・・・」 「新しい衣装か?」 ハルヒ「そうよ、みくるちゃんは本当にかわいいからね」 そういえばハルヒは朝比奈さんがいないとすごくつまんなそうだ ハルヒ「謎の転校生とか来ればいいのに・・・」 待望の転校生が来た 朝の教室はその話題で持ちきりだった 「今の時期にくる転校生なんて謎だな」 ハルヒ「そうね、同じクラスじゃないけど」 「もう転校生見たか?1年9組で古泉一樹って男子らしいぞ」 ハルヒ「へぇ~、あとで見にいくわ」 ついに超能力者が入部か・・・ その日の部活、朝比奈さんは復活した。今は俺が持ってきたオセロで俺と対戦している。 長門は相変わらず読書。 みくる「涼宮さん遅いですね。」 「転校生でも連れてくるのでしょう」 みくる「転校生ですか?」 「1年9組に来たようです、時期が時期ですしハルヒが興味を示したようで・・・」 みくる「へぇ、そういえばキョン君はどうして人の心とかいろいろ知っているんですか?」 「俺は一回この日々を見たんですよ。多少のズレはありますけどね」 今の俺かっこよくきまってたよな? みくる「どこで見たんですか?」 「禁則事項です」 みくる「そうですか・・・あ、また負けちゃいました・・・」 「オセロはとりあえずはさむだけでは勝てませんよ、二手三手先も読まないと」 みくる「ふぇ~奥が深いんですね」 「慣れればきっと勝てるようになりますよ」 視線を感じて振り返ると長門が盤をじっと見ていた 「長門もやるか?」 長門は首をわずかに縦にふった。 「ルールはわかるか?」 長門は首をわずかに横にふった 「じゃ~教えてやるぞ」 3人でオセロをしているとハルヒが転校生を連れてやってきた ハルヒ「転校生連れてきたわよ。1年9組に今日やってきたの、名前は・・・」 「古泉一樹くんだね?」 古泉「おや?もうご存知でしたか」 ハルヒ「古泉くん、アイツはめっちゃ変なヤツだから気をつけてね」 古泉「はぁ・・・ところでこの部活に入るのはいいのですが何をやる部活なんですか?」 ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者を見つけ出して一緒にあそぶのよ」 みくる「!!」 長門「!」 おもしろい光景だ 古泉「はぁ、なるほど。いいでしょう、僕も入部します」 ハルヒ「あの変なヤツがキョンで、あのかわいい子がみくるちゃん、あの眼鏡っこが有希」 古泉「みなさんよろしくお願いします。」 ハルヒは学校を案内してあげるといって古泉を連れ出し、朝比奈さんは用事があるといって先に帰ってしまった。部室には俺と長門だけ 長門はずっと本を読んでいて一緒にオセロをやる雰囲気ではない。俺も帰ることにした。 「じゃあな、長門」 長門「あなたに一つ忠告する。」 「なんだ?」 長門「涼宮ハルヒと出会ったばかりの頃のあなたは涼宮ハルヒに対してとてもしつこかった。そのことを涼宮ハルヒは快く思っていなかった。そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。これはあなたの未来に対する解釈と現実とに大きなズレを生むかもしれない。気をつけて」 これではますますあの本のことなんて言えないな、予知能力者を演じつつハルヒのご機嫌をとらないと楽しい高校生活とは決別か・・・でも俺にはあの本があるんだ、大丈夫だ 「わかったよ、創造神さまにこれ以上嫌われたら大変だもんな、ありがとな」 長門(そして涼宮ハルヒがいくらあなた自身を改変しようとしても改変できない・・・) 土曜日、朝9時北口駅前集合 金曜日の部活中の第1回ミーティングにて ハルヒ「果報は寝て待ってもやってこないわ。果報は探し出すもの。だから探しに行きましょう」 「不思議を探すんだろ?」 ハルヒ「そうよ、市内をくまなくさがすの。明日朝9時に北口駅前に集合。遅れちゃだめよ」 そして急遽決まった不思議探索、これも予定通り。 俺は突如決まるはずの罰金が嫌だから一番最初に集合場所につくようにした。 古泉「いや~みなさん早いですね」 一番最後は古泉、でも罰金はなかった ハルヒ「二手に分かれて街を探索して、何か見つかりしだいケイタイで連絡しつつ時間まで探索継続。あとで反省と考察をするわ。じゃ~くじでグループを決めるわよ」 俺は朝比奈さんと二人組になった。ハルヒは朝比奈さんをじっと見つめていた。 ハルヒ「キョン、これはデートじゃないんだからみくるちゃんに変なことしたら許さないからね」 「わかったよ」 不思議ったって簡単にみつかるもんじゃない。 「朝比奈さん、そこらへんをふらふら歩きましょう」 みくる「あの・・・ちょっとお話が・・・」 「どうぞ」 みくる「お分かりのとおり、私は未来人です。」 「ああ、はい。そのことに関しては全部知っていますよ」 みくる「では、お聞きします。去年の冬あなたは何をしていましたか?」 「していたことといえば受験勉強ですが」 みくる「かわったことはありませんでしたか?」 「・・・・・とくにありません」 みくる「そうですか・・・」 「去年の冬になにかあったんですか?」 みくる「はい、私たち未来人は私が今ここにいるように時間をさかのぼることができます。でも去年の12月3日から約1週間だけはどうしても侵入できないんです。」 俺があの本を購入して読み終えるまでの間か・・・ みくる「キョン君はいろいろなことを知っています。なら、この期間についても何かご存知なのかと思って・・・」 「残念ながら力にはなれません。」 そしてしばらくブラブラしているとハルヒから電話があった 『12時にいったん駅前に集合』 集合後、昼飯をファミレスで食べ、午後の部のくじ引きをした。 俺は長門とだ ハルヒ「じゃ~4時集合ね」 「行くか」 長門「・・・・」 「この前の話なんだが」 長門「なに?」 「俺は最近でしゃばらないでいるつもりなんだが、ハルヒはまだ俺を嫌ってるのか?」 長門「前よりは改善された、しかしあなたは一人の人間というあなたよりは予知能力者としてのあなたのほうが大きい」 「そうか・・・、でもどうして同じようなことされた長門や朝比奈さんは俺を避けないんだ?」 長門「あなたと決別するのは私と朝比奈みくるが所属する派にとって得策ではない。それにあなたは悪い人間ではない」 「そっか、ありがとな。そういえば長門は図書館って知ってるか?」 長門「?」 お礼と言ってはなんだが、俺は本好きな長門を図書館に連れて行った 長門「ここが図書館?」 「そうだ」 それからしばらく長門は本にかじりついて離れなかった、気がついたらもう3時だ 「長門そろそろいくぞ」 長門「・・・・・」 長門は名残惜しそうに本を眺めている 「じゃ~図書カード作ってやるよ」 長門「図書カード・・・?」 「それがあればここの本ならなんでも借りれるんだ」 俺はカウンターで図書カードを作った 「ほら」 長門「・・・・ありがと」 長門はさっそくデカルトとゲーリングスの哲学書を借りた 長門「最後にひとつ聞いていい?」 「なんだ?」 長門「あなたの未来に対する解釈ではこの先どうなる?」 「ハッピーエンドだな」 長門「そう」 そして駅前に戻ることにした どうやら向こうのグループも収穫はなかったらしい ハルヒ「次回は絶対に不思議を見つけてやるわ、今日はもう解散。月曜日は反省会よ」 ハルヒは真っ先に帰ってしまった 古泉「じゃ~僕も帰ります。話によるとあなたは僕の正体をもう見抜いているのでしょう?今日はゆっくり話す時間がなくて残念です。」 「ああ、じゃあな」 みくる「今日はありがとうございました。また月曜日にあいましょう」 「さようなら、朝比奈さん」 長門「さようなら」 「おう、じゃあな」 週明けの部室 長門と古泉はもう来ていた。ちょうどいい、古泉と話をしよう 「古泉、今ならハルヒもいないし話ができるだろ?」 古泉「そうですね、念には念をということで場所を変えましょう。」 俺たちは食堂まで行き、テーブルについた 古泉「といってもあなたは僕の全部を知っているのでしょう?」 「ああ、だから俺からの質問はない。お前から俺に聞きたいことはあるか?」 古泉「そうですねぇ・・・あなたの予知はどれくらい当たりますか?」 「俺の行動を含まなければ7割はあたると思うぞ」 古泉「そうですか、ん?あなたは自分の予知と同じようには行動しないんですか?」 「ああ、俺がみたのと同じように行動するのは不可能だ。環境は同じでも俺本人は言うことを聞いてくれないらしい」 古泉「予知の中でのあなたと現実のあなたの行動のズレで何か問題はおきないんですか?」 「そうだなぁ・・・今のところは大丈夫だ」 古泉「そうですか・・・では、部室に戻りましょう」 部室のドアをあけると予定通り朝比奈さんが下着姿で立っていた、エプロンドレスを持ったまま固まっている。ほら、俺の予知はすばらしい。 「失礼しました」 俺たちは廊下で待っていた 古泉「さっきのも予知していたんですか?」 「ああ、まったく同じだ」 古泉「んふっ、罪な人です」 しばらくして中から「どうぞ」という朝比奈さんの声が聞こえた。 「すみません」 みくる「いいえ、見苦しい姿をみせたこっちこそすみません」 朝比奈さんはハルヒの注文を守っているらしい。やっぱメイド服を着込んだ朝比奈さん(実物)はすげぇかわいい。 みくる「どうぞ」 朝比奈さんはみんなにお茶を注いだ、笑顔で湯のみをわたされると本物のメイドさんにお茶をくんでもらっているようだ。とてもすばらしい。 結局その日、ハルヒはこなかった 次の日の教室 「昨日もう一回歩ってなんか見つけたか?」 ハルヒ「うるさいわねぇ、知ってんならわざわざ聞かないでよ」 やっちまった・・・また機嫌損ねちまったか? ハルヒ「日常がつまんないから変なヤツに言われた通りにSOS団作ったのに。萌えキャラとか謎の転校生も入団させたのに。何も起こらないのはどうしてよ?なんか大事件でも起きなさいよ」 弱気なハルヒってのもいいな・・・やっぱり・・・ 体育で外に出ようと下駄箱を開けると一通のかわいらしい手紙が入っていた 「きたか・・・」 体育終了後に回収しよう。 もちろん内容はわかっている。差出人は朝倉だろ? 俺は無視する。殺されかけるなんてごめんだからな。あと長門に報告だ、バックアップがもうすぐ暴走するってな 長門「パタン」 ハルヒ「今日は解散」 いつもの長門の合図で今日の部活は終わった ハルヒは真っ先に帰り、古泉と朝比奈さんも帰った 残るのは俺と長門だけ、よし作戦決行だ 「長門、これを見てくれ」 長門「放課後誰もいなくなったら、1年5組の教室にきて・・・?」 「俺の下駄箱にはいっていた手紙だ。俺の予知では手紙はお前のバックアップである朝倉からのもので、俺が教室に入るなり暴走する。」 長門「・・・・・」 「だからちょっと叱ってやってくれ」 長門「わかった、いってくる」 まぁこれで大丈夫だろ、朝倉は明日からカナダだ 俺は長門が帰ってくるまで部室で待つことにした 1年5組教室 朝倉「どうして長門さんが?」 長門「あなたがここで暴走すると彼から聞いたから」 朝倉「長門さんはあの不確定要素の言うことを信じるの?」 長門「そうすることで今まで上手くいった、これからも上手くいくはず」 朝倉「私は彼に正体がバレているわ、彼相手に目立った行動なんてできるわけないじゃない。ただ私は最近の涼宮さんの教室での様子について話を聞こうとしただけよ。涼宮さん、最近いつにも増して不機嫌だから・・・。涼宮さんがいないときをはかってね。それに今彼の身に危険が及ぶことは情報統合思念体にとってなんの利益もないわ」 長門「ではなぜ彼はこんなことを?」 朝倉「徐々に予知と現実にズレが生じている証拠じゃない。」 長門「たしかに」 朝倉「長門さん、冷静になって。私はあなたのバックアップであなたに歯向かうことはできないのよ?そして私たちが頼れるものは最終的には情報統合思念体だけじゃない」 長門「そう、わかった。それでは帰る」 朝倉「さようなら」 部室 「よう、長門お帰り。朝倉はもう消えたか?」 長門「どういうこと?」 「なにが?」 長門「朝倉涼子はあなたから最近の涼宮ハルヒの様子を聞きたかっただけ」 「そんなはずはない、朝倉は俺を殺そうとするはずだったんだ!」 長門「あなたは朝倉涼子が私のバックアップだと知っている、朝倉涼子もあなたに知られていることに気づいている」 「ああ、初日ちょっとからかっちまったからな」 長門「正体が知られている相手に釣り針を落とすの?」 「・・・・・・・」 長門「あなたの予知にもズレが生じ始めている。これからはあなたを信頼しきるのはできない」 「・・・・・・」 長門「帰る」 長門は部室を出て行った。ちくしょう、どうなってんだ?俺は確かにシナリオに従わないときもある、しかし今まで上手くいったじゃないか。朝倉が明日からも学校にいるなんてあの本には書いていなかった。どうすればいいんだ・・・ 家に帰るとすぐにベッドに入った。あの本なんて手に入れなければよかった。そうすれば俺は予知とか関係なしにあの本のシナリオにそって行動したかもしれないじゃないか。 いつまでたっても眠れない、もう1時半だ その時携帯が鳴った、誰だよこんな時間に・・・古泉!? 古泉『大変です!涼宮さんが閉鎖空間に閉じ込められました!』 おい、うそだろ?まだそれは早いはず、さらに俺も一緒にそこにいるはずだろ? 長門“そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。” まさか!おいおい冗談だろ・・・、俺はアイツに願われてアイツと一緒にいくはずだろ! 古泉『ちゃんと聞いているんですか!!??』 「悪い、もう一回言ってくれ」 古泉『ですから、あなたの見解を聞きたいのです。あなたの予知ではこの状況で何がおきるんですか?』 「俺はハルヒと閉鎖空間に閉じ込められて、校舎を探索して・・・」 古泉『それで?』 「すげぇでかい神人がでてきて・・・ハルヒと一緒に校庭にいって・・・おびえるハルヒを庇って・・・・日常に嫌気をさしてるハルヒを説得して・・・」 古泉『それで?』 「き、キスして世界は救われる・・・」 古泉『あなたには失望しました・・・今回の閉鎖空間は我々でも姿をとどめることも、長時間いることもできないんです。生身のあなたでは到底そのシナリオは達成できるわけありません。我々は全力をつくしますが、明日また会えるかはわかりません。それでは・・・』 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、絶対そうなるはずだ!だってあの本に書いてあったんだから・・・ ?「それはないわ」 「誰だぁ!?なぜそんなことがいえる!!??」 ここは俺の部屋だ、俺のほかに誰もいないはず・・・ 身を起すと信じられないものを見た 朝倉がベッドのすぐ横に立っていたのだ 「お前、どうやってはいったんだぁ!?」 朝倉「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースよ、情報操作ができるに決まってるじゃない」 「何しにきたんだよ!?」 朝倉「昨日のお礼よ。あなたは私の読みどおりに私を救ってくれたじゃない」 いつの話だ?いつの話だ?いつの話だ?思い出せないぞ!! 朝倉「あなた、予知能力なんてないんでしょ?」 「!!!なんでだぁ・・・なんでしってるんだぁ・・・?」 朝倉「これ」 朝倉はあの本を持っていた 朝倉「本棚に置いておくなんて無用心ね、涼宮さんとかが家にくるときとかどうしていたの?」 言葉もでないし、頭は朝倉の言葉を理解できない 朝倉「この本、私たち急進派が去年の12月3日にあなたの視線が特定の本棚を向く瞬間に発生させた情報なの。そしてあなたはこの本を買った。」 朝倉「この本は私たち急進派が作戦を失敗した時のあなたの周辺の世界をあなたの視点で綴ったものなの」 意味がわからない意味がわからない意味がわからない・・・・ 朝倉「人は一回できあがったシナリオを完全に再現することはできないでしょ?台本を読んだあなたはおもしろいくらいにシナリオをずらしたの」 朝倉「急進派はタブーとされる限度以上の情報操作をしたわ、涼宮さんにもね・・・。そして長門さんも情報統合思念体ですら見抜けなかったわ」 「なんで俺が世界を壊さないとなんだぁぁぁ!!!なんで俺なんだぁぁぁ!?」 朝倉「それはあなたは急進派が失敗した世界でのキーパーソンだったからよ、そしてあなたを少しずらせばあっという間にすべてが崩れた」 「俺はぁ・・・・俺はぁ・・・!!」 朝倉「あなたはとてもおろかだわ、この本の世界のあなたは普通を愛せた人間だったのにこの世界のあなたは欲にまみれている・・・」 もう力がはいらない・・・ 朝倉「私たちは少しだけ涼宮さんに変化があれば満足したのに、あなたはすべてを壊した。まぁいいわ、お礼を言っておかなくちゃ。ありがと」 「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」 そしてこの世界は消失した。俺はとても馬鹿な人間だった。 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3432.html
「ねぇキョン?」「ちょっと!聞いてるの?キョン!?」「それでねキョンはね、」「あっ!そうそう、キョンそれからね」「キョンっ!」「そう言えばキョンは…」「キョン明日はね…」「ねぇキョンは?」「ほらキョン!ちゃんと聞きなさい!」 ……まったく飯の時とか2人でテレビ見てる時位は静かにして欲しいな。 孤島の1件からハルヒと付き合う事になってしばらく経つ、授業中も、部活の時も、その後も、休日も、寝る前でさえ電話で、そう…ほぼ丸一日中俺と一緒にいるのに、なんでこいつは話題が尽きないのかね? まるでマシンガンやアサルトライフル…いやガトリングガンやバルカン砲だな…いや弾切れがある分羅列した銃器の方がましだな。こいつの話題は切れないしな。 「なぁハルヒ…何でお前はそんなに話題が尽きないんだ?こんなにずっと一緒に居るのによ。」 「ったく…たまに自分から口を開いたと思ったら…何よそれは?良い?あたし達はNTじゃないから、黙っていても分かり合えないのよ?」 ……そう言えばこの前一緒に某ロボットアニメを見たな… 「それにあたし達は恋人どうしなのよ!?お互いが一番に分かり合ってなきゃだめなの?それ位はアホキョンにでも分かるでしょ?だから、こうやって毎日毎日あたしが話してるのよ!」 なるほどな…でも俺もっと簡単に分かり合える方法知ってるぜ? 俺は無言でハルヒを抱き締めた。 「ちょっと…キョン!?」 ハルヒのヤツは、顔真っ赤にして抗議しながらも、俺に体を預けて大人しく抱き締められている。ったく…こうしてりゃ静かなんだけどな。 「……分かったわよ…じゃあこれからは、いつでも分かり合える様にこうして抱き締めなさい…良いわね……」 真っ赤にしてゴニョゴニョ言うハルヒは可愛いが……墓穴ほったなこりゃ… 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2657.html
キョン「ただいま」 西暦20XX年、俺は高校を卒業してそこそこのレベルの大学に受かり、卒業してから就職、現在は毎日定時に会社に行って働く毎日だ。 まあ普通社会人ってのはすべからくそうしてこの日本経済の歯車的活動の一環を担って生きていくものだが、ここにその例から外れた存在がいた。 ハルヒ「おかえり、今日の晩御飯なに?」 普通、家にずっといて、しかも働いて帰ってきた奴に対して言う台詞じゃあない。「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする?」というのが相場だろう。 だがこいつがいまだかつて俺の帰宅を暖かい風呂や飯をこしらえて待っていたことなど一度としてない。 ハルヒ「あ、レベル上がった!」 おそらく今日もまた一日中ずっと座りっぱなしだったと思われるパソコンデスクに腰を下ろしたままハルヒが言った。 画面に映し出されているのはオンラインのRPGゲーム、ここ数ヶ月もっぱらハルヒのライフワークは電脳世界と行ったり来たり、もとい行きっ放しの状態だ。 キョン「せめて部屋くらい片付けておいてくれよ。こちとら働いて帰ってくたくたなんだ……」 ハルヒ「なによ偉そうに、別にいいじゃない。それよりお腹すいたから早くご飯作ってよ」 人様の家に上がりこんで飯まで食わせてもらってる身分でここまでぞんざいな態度が取れるのはある意味才能だと俺は思った。 ハルヒが俺と同棲(?)するようになったのは、もう半年ほど前のことだった。 きっかけは、町で偶然にハルヒを見かけたことだったが………… ~回想シーン~ ハルヒは高校卒業後、俺より遥かにランクの高い一流大学に合格したと聞いていた。 だから、俺が社会人になったある日、街角で着古したぼろぼろの服で歩いていたハルヒを見たとき俺は愕然とした。 まさかと思って声を掛けたらやっぱりハルヒだった。そして聞くところによると、ハルヒは大学を中退して家を追い出されたということだった。 キョン「そりゃまたどうして……? お前はあんなに優秀だったじゃないか」 ハルヒ「ふんだ。心の病ってもんがあるのよ、あたしもう何もやる気がしないの」 話し方や雰囲気だけは昔のハルヒのままだった。それだけで俺はほっとした。 俺たちは話をするためにハンバーガー屋に入って席に着いていた。ハルヒは当然金なんて持ってないから俺のおごりだ。まあ持ってたとしてもハルヒは俺におごらせるだろうが。 そして話は聞けば聞くほどに深刻なものだった。 ハルヒはもうずっと前から全てに対してやる気を失った状態でいるらしく、大学は早々と中退、それからも家で親に身の回りの世話を一切まかせっきりにしたまま自分は部屋に閉じこもってパソコンをいじっていたらしい。 いわゆるニートとかひきこもりと呼ばれる人々と同じ症状だった。そして、ある日ついに我慢が限界に到達した両親がハルヒに出て行けと怒鳴ったらしい。 キョン「それで着の身着のまま家を出て来たのか」 ハルヒ「そうよ。せめて着替えくらい持って出るべきだったと後悔してるわ」 ハルヒ自身、自分が家族に負担をかけていることを重々承知していた。だから、両親としてみれば、ハルヒに頑張ってほしくてつい口から出た「出て行け」の言葉がハルヒにとっては耐えられないものだったのだ。 ハルヒ「ていっても、家を出たのはついおとといのことだけどね。まさかキョンに見つかるなんて奇妙な偶然ね」 偶然。おそらくそうじゃないだろう。 俺は普段この町に来ることはない、しかし今日なぜか上司からいきなり出張の仕事を申し付けられ、高校時代まで慣れ親しんだこの町に一日だけ戻ってくることになったのだ。 それはひょっとしてハルヒがそう望んだからじゃないのか? ハルヒは家を追い出されて、寂しく一人で外を歩きながら、俺に会いたいと願ってくれたんじゃないか? ハルヒは俺に無言のSOSを送っていたんだ。そうだとしたら、俺にはハルヒを放っておくことなどできるはずがない。俺がハルヒを助けてやらないといけない。そう思った。 キョン「ハルヒ。お前、俺と一緒に暮らす気はないか?」 ハルヒ「へっ!? な、なに言ってんのよ急に!」 キョン「行くあても無いんだろう、だったらいいじゃないか。俺は今アパートに一人暮らしだが、ちょうど家が広すぎると思ってたんだ。だからハルヒ、俺と一緒に……」 ハルヒ「ま、待ちなさいよ! あんた何考えてるの!? 今日会ったばかりでいきなり同棲しようなんて! 猿でももうちょっと貞淑なアプローチするわよ!」 キョン「下心なんて無い、本当だ、誓ってもいい」 ハルヒ「なんなのよ一体……? でも確かに野宿はもうごめんだし、お風呂に入ったりちゃんとした食事も採りたいと思ってたところだから丁度いいわ。でも、あんたは本当にいいの? あたしきっと迷惑かけるだけよ、何も役に立つことなんて出来ない」 キョン「ハルヒ、お前は役に立たない存在なんかじゃない、俺が保障する。きっと今は調子が悪いだけだ。高校時代までが出来すぎてたんだ、そのつけを払うと思えばいい。そして元気になったら、いつでも出て行ってくれて構わない、だから……」 ハルヒはその時、ただ笑って「わかったわ。だったらお邪魔させてもらうけど、あたしが世話になるからって威張ったり偉そうにしたら駄目よ! あんたがどうしてもっていうから、仕方なくあんたの世話になるだけなんだからね!」と言っていた。 ~回想シーン終わり~ そしてそれから数ヶ月が経過して今日に至る。 ハルヒの「病気」は一向に良くなる兆しは無い。結局今日もまたずっと家でパソコンをいじってただけで、部屋の片付けすらしようとしないし、服も着替えていない。 キョン「晩飯出来たぞ」 ハルヒ「ああ、ちょっとまって、今きりが悪いわ。セーブするまであと10分くらいだから」 はあ、俺はおもわずため息をついて額に手をやった。このポーズをするのも高校を卒業してから久しぶりだったが、ハルヒが家に住むようになってからはしょっちゅうだった。そして、これまたあの頃よく言っていた台詞が俺の口から出て来た。 キョン「やれやれだ……」 同棲相手が出来たというより、でっかい子供が出来たといった感じだ。 ハルヒニート 第一話 完